「はい……」
「あのときはそれが本当だった。だが、『本当』は移ろう。今の話は、こいつが話すことをゆるさない限り、誰も口に出来る話ではなかった……そういうことなんだ」
「え……と?」
よく意味がわからず美也が返すと、女性が美也を見てきた。
「美也、お前はな、わたくしの巫女だったのだよ」
「……はいっ?」
巫女、だった? とは一体……。
「省略せずに話せ。美也、すぐには信じがたいかもしれないが……前世という意味だ。美也の前世は、こいつの巫女だった」
「え……そう、なんですか……?」
美也が問い返すと、女性は深くうなずいた。
「そうじゃ。とてもよい子だった。じゃが、ひとつ誤解しないでほしい。わたくしの巫女と美也は同一人物ではなく、美也がわたくしの巫女のようになる必要もない。美也が生きるのは、美也の人生。そして、美也に惚れたのもこやつの勝手よ」
「……おい」
「ほほほ~。あれじゃな。あとは若い者で、というやつじゃな。美也、婆は一度引っ込むとしよう。また逢いに来る」
そう言って美也の頭をにこにこと撫でてから、女性は目を閉じた。
それと同時に姿が光の粒子に変わって消えていった。
登場の仕方も退場の仕方も、とうてい美也の考えの追い付かないものだった。
榊が深く息を吐く。
「だから俺のが年上だっての。……美也、制約が解けたことで、また話さなければいけないことが出来たんだが――」
榊が言いさし、美也がはいと答える前に――
「う、うう~」
奏がみじろぎ、うなり声をあげた。
「! か、奏さん!」
「え? ……うわ、きれーな人……あー、あたしあの世に来ちゃった系か……」
「奏さん! しっかりしてください!」
ぼんやりした眼差しで、横になった状態の奏にはまず榊が目に入ったらしい。
美也が奏の顔の前で手を振ると、数秒置いて、え、という顔をした。
「美也!? あんた、あたしの後追ったの!? ばっかじゃないの!?」
「死んでません! 奏さん生きてます! この世ですから!」
「え……生きてる?」
「はい、いぎでまず」
美也の声が涙ぐんできて、鼻声になった。