「……はい」
美也は神妙な顔でうなずく。
「それはつまり、榊の巫女となるということ。榊――地上の龍神の最高神からの言葉を、地上に伝える役割を持つ者じゃ。美也が否(いな)やを唱えれば、美也が巫女となることはないが……どうじゃ?」
「……」
(どう、と言われても……)
結婚を本人の意思に関係なく周りが決めてしまうことがあるとは知っているが、いざ自分がその立場になるとどうしていいかわからない、というのが素直な感想だ。
年齢的な問題や、今現在重要な受験を控えていることも理由になるかもしれないが、どうしていいかわからない以前に、どう捉えればいいのかわからないのかもしれない。
美也はこくりと唾を飲み込んだ。
「……すみません、よく……わからない、です……」
美也の視線が、下を向く。
その腕に抱きしめられた奏は、まるで寝ているように静かに胸を上下させながら目を閉じている。
女性は、ふむ、とうなずいた。
「まあ、それはそうじゃろうな。わたくしも神隠しなどするつもりはないよ。榊の唐変木にはほとほと呆れるが、時代というものはあろう。あの頃のように美也をはじめから姫巫女と出来ればよかったが、榊ですら生まれてから気づいたもの。……あのとき助けられず、すまなかった」
そう言って、女性は美也の頬を撫でた。
「……あのとき?」
それは、両親が亡くなったときのことだろうか。
美也がつぶやいたとき、パンっと何かが割れるような音が響いた。高い音だった。
「え、なに?」
あまりの大きさに、美也は右耳を手でふさいだ。
「うん? 榊、なんじゃ今の音は」
女性が榊を見ると、榊は渋い顔をする。
「……その話はお前に課された制約だったんだ。俺から発することはできなかった」
制約、とまた美也のわからない話になった。
しかしきょとんとしているのは女性も一緒だった。
「ん? ……ああ、そういうことか……。すまない、美也……」
「え……なんで私が謝られるんですか?」
美也が疑問符を浮かべると、榊は真剣な顔で話し出した。
「美也。月御門のとき、俺はお前に隠し事はない、そう言ったな?」