「少し眠ることにはなるだろうが、そんなことよりも我が子孫が大事じゃ。美也、一人にしてすまなかった。榊もなかなかに唐変木ゆえ、やきもきしたじゃろう」
「お前俺のことけなしに降りてきたのか?」
榊と女性は仲がいいのか険悪なのか、よくわからないやり取りをしている。
女性はふっと妖艶に笑う。
「その通りじゃ。ぬし、何年我が子孫の傍らにおった? それで愛の言葉のひとつもないとは……昼行燈(ひるあんどん)の唐変木じゃ」
その言われ方にさすがにカチッときたのか、榊はイラつきの混じった声でかえした。
「美也の年齢考えろっての。美也、もうわかってると思うが、こいつは天界の龍神の最高神、美也の祖先にあたる龍神だ」
榊が美也を気遣って説明してくれた。
美也は奏を抱きしめた格好のまま息をついた。
その美しさは榊と張るほどで、神々しいとはこのことかと思わせた。
「女性の方だったのですね……」
「そうじゃ。美也の祖母ではないが、婆(ばば)とでも呼んでおくれ」
女性は二十代三十代の見た目だが、そこに特に関心はないらしい。
「そんな……ご迷惑でなかったら、お姉様とお呼びしたいくらいです」
美也がそう言うと、女性は金色の目を大きく見開いた。
「なんと……! この年になって姉様と呼んでもらえるとは……生きてみるものじゃな。というわけで榊、ぬしもわたくしのことは姉上と呼ぶがよい」
「誰が呼ぶか。俺のが年上だ」
(え、そうなんだ……)
榊の方が年上というのは、美也からしたらなんとも不思議な話だ。
神様に年齢は関係ないのかもしれないが、ご先祖様と、これから一緒にいることになる人の関係性とは……。
「些末なことを気にするのぉ。くそじじなだけあるの。まあどうでもいいわ、そんなこと。美也、こうして我が子孫に逢いに来たのには理由があるのじゃ。美也、わたくしとともに暮らさぬか?」
女性の突拍子のない提案に、美也は何度も瞬いた。
「……へ?」
「榊も一緒でもよい。そうさな――美也の、巫女修行を始めようと思うのじゃ」
「……みこ修行?」
とは、美也が開斗たちから呼ばれている『巫女』だろう。
そうなることを望まれているのは知っているけれど、――榊本人から乞われたことはない。
女性はにこやかに笑む。
「そうじゃ。美也は天界の龍神から、榊の嫁にと望まれていることは聞いておるな?」