「奏さんの私への認識を無理やり変えるつもりはありません。ですが、奏さんの言いなりにはならないことも伝えておきます」

「……!」

奏は美也に向かって手を振り上げた。叩かれることを覚悟した美也は目を閉じた。――が、衝撃は来ない。

(……叩かれない?)

うっすら目を開けると、唇を噛んで悔しそうな顔の奏が肩を震わせていた。

「あんたなんて……顔だけのくせに!」

(……はい?)

美也が、どういう暴言だろう、と意味がわからずにいると、奏は美也を突き飛ばして玄関から飛び出して行ってしまった。

「え……なに? どういうこと?」

奏が意味不明なことを言って飛び出していったので、美也はその上をいくくらい意味がわからなかった。

(と、とりあえず……追いかけた方がいいよね?)

奏は明らかに様子がおかしかった。このまま事故に遭われでもしたら大変だ。

美也はカバンを玄関に置いて駆け出した。



「奏さん――」

いつの間にか、ぽつぽつと雨が降り出していた。

十字路で美也は周囲を見渡すが、奏の姿はない。

大降りになる前に見つけないと――

「巫女さま? どうされたのですか?」

「えっ? あっ! 開斗くん!」

聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると、小龍の姿でふよふよと浮いている開斗だった。

美也を見つけてぱあっと明るい顔になる。

「榊さまのところへ来られるのですか? でしたら雨も降っていますから――」

「開斗くん! 奏さん見てない!?」

美也は血相を変えて開斗に詰め寄った。

開斗は一瞬呆気にとられてから、むすっとした顔になる。

「ふえっ? かなでって……巫女さまにいじわるしてる人じゃないですかっ。ぼくそんな人知りませんっ」

ぷいっとそっぽを向く開斗だが、それどころではない。

「奏さん、家を飛び出しちゃったんです。なんか私のせいみたいで……お願い開斗くん、文句はあとでたくさん聞くから、一緒に探してくれませんかっ?」