土曜日の帰り、少しだが榊は説明をしてくれた。

その中に龍神の禁忌があった。

人間を殺してしまった龍神は神位をはく奪され神格くずれとなり、よくないものに染まっていくのだそうだ。

それは悪霊や怨霊と似た存在らしい。

美也は口元に力を入れて背筋を正した。

「それは出来ません。今現在人に譲れるあの方への用事はありませんし、あの方にはあの方の事情があります。おいそれと居場所を教えることも出来ません」

美也がはっきりとした口調で言うと、奏は刹那の間を置いてカッと顔を赤くさせた。

「なに生意気なこと言ってんの!? あんたそんなこと言える立場だって思ってんの!? うちは身寄りナシのあんたを引き取ってあげたんだよ? 感謝されこそすれ、反抗なんて選択肢あんたにはないんだよ!」

真正面からなじる言葉を、でも事実もぶつけられて、美也は奥歯を噛んだ。

確かにそうだ。

両親を亡くした美也はおじ以外に頼れるところがなかった。

美也というイレギュラーに、愛村家にはお金も時間もかけさせてしまっただろう。

おじやおばも、美也を施設に預ける選択もあったはずだ。

だが、こうして家に住まわせてくれた。

家事は全部押し付けられて、行動範囲も限定された生活だったが、美也がお金に困って犯罪に走るようなことはなかった。

美也は、腰から上体を折って頭を下げた。

「引き取ってくださったこと、育ててくださったことには感謝しています。ご迷惑やお手間をおかけしたと感じています。この御恩は必ずお返し致します」

「そうよね? うちで引き取ってなかったら、あんたどうなってたかわかんないもんね」

「――ですが、あの方はそこに関係ありません。あの方は私の所有物ではないので、私の勝手でお話し出来ることもありません。どうかご承知おきください」

言い終わってから、美也は顔をあげた。

歯ぎしりでもしそうな奏と目が合って、美也の心臓は恐怖に震えた。

(でも――決めたんだ)

強くなると。

「……私にご不満があるのは承知しております。すぐにでも出て行けというのなら、そう致します。今まで、お世話になりまし――」

「あんたみたいな無料の家政婦、逃がすわけないじゃない! そうよ? あたしたちはあんたを助けてあげたの。一生かけて返してくれてもいいわよね?」

(無料の家政婦……すごいワードだな……)

そしてやはり、奏の美也への認識はそういったものだったか。

美也は奏に向かって、にこりと笑った。