「はじめまして。清水美也です。……帯天、くん? ちゃん?」
「帯天に性別はない。治癒に特化した使役が必用だったから、帯天には治療の能力しかなくてな。瀕死の傷も帯天には負担なく治せるようにしたら、声と性別を置いてきてしまった」
ぺこり、と頭を下げる帯天。
「そうなんですね。帯天さんですね。よろしくお願いします」
美也から挨拶された帯天は、じーっと美也を見てきた。
ショートカットの茶色の髪が、朝日に反射して綺麗だ。とか思っていたら、ぎゅーっと抱き着いてきた。
「わっ?」
「こ、こら帯天!」
慌てた榊が帯天を引きはがそうとするが、接着剤でくっついてしまったように離れない。
「お前! お前まで美也を狙ってるとかじゃないだろうな!?」
それはそれで、美也があやかしに大人気過ぎる。
元々天界の龍神の子孫なのだから、あやかしからはいい意味でも悪い意味でも狙われて当然という立場だが。
「………」
美也に抱き着いたままの帯天が、ちらっと榊を振り返った。そしてにやっと笑った。それを見てしまった榊は、怒りが頂点に達した。
「帯天」
静かな声で名前を呼ぶ。
広げた手のひらの上に、ぱっと札が浮いた。
どこからともなく現れたそれを見て、帯天はびくっと肩を跳ねさせ、美也から離れた。
それからぺこぺこと美也に頭を下げまくる。
「榊さん、私別に何もないから大丈夫ですよ」
「いいや、こいつ美也に色目使った。万死に値する」
「自分の使役を万死させないでくださいっ」
「美也、そろそろ学校へ行かないとまずのではないか?」
「はっ! そうでした! あの、帰りは寄れないので、また時間を作れた朝に来てもいいですか?」
「もちろんだ。次は皆ともちゃんと会わせよう。気を付けて」
笑顔の榊と、びくびくしている帯天に見送られて美也は神社の階段を駆け下りた。
なんだかんだ、やはり榊は強いらしい。周囲の小さなあやかしには舐められまくっているけれど。