おじもおばも、妹とその夫のことは会話に出さなかった。
その理由が、妹と血がつながっていなかったことや、妹があやかしを視る力を持っていたことを疎んでいたからかもしれない。
これからは、榊から両親の話を聞けるかもしれない。
「み、美也? どうした、嫌なことを言ってしまったか?」
「あ、違います……その、お父さんとお母さんの名前を聞いたのが久しぶりだったので……」
「名前?」
「榊さん、ずっとそばにいてくれましたけど、お父さんとお母さんのことは……話していいか、わからなかったので……。私の記憶にあった、初対面の場面が場面ですし……」
亡くなった両親のもとへいく。あのときの美也の願いは、それだけだった。
まさしく、死の淵から救ってくれた榊。
「教えてくれませんか? お父さんと、お母さんのこと」
「………」
美也の真っすぐな眼差しを、榊は正面から受け止めた。
「茉也は幼い頃からはねっかえりで、友哉は大人しかった。でも茉也は友哉の言うことだけは聞いていて、茉也を任せられるのは友哉だけだった」
「はねっかえり……」
「美也が俺に愚痴っていたこうしたかったって行動を、全部本気でやるような子だった」
「えっ!? 私の妄想って大概ですよ? コーヒーと偽って醤油いれるとか」
「茉也、それを嫌いな親戚にやってた」
「お、お母さん……」
美也の気持ちが、同感するのではなく絶望してしまった。お母さんってそんな人だったんだ……。
「友哉は美也には淑やかに育ってほしいと言っていたが……茉也と思考は似てるけど行動までは一緒じゃないからなぁ……」
「う……自分でも淑やかとは思いませんが……」
(お父さん、ごめんなさい……)
父には申し訳ないが、本当に父の思うように育つことは出来なかった。
「まあ、それを知っていた俺も美也の成長にそういう道を敷かなかったから、気にするとこじゃない。大体、はねっかえりの茉也を好きになるような奴だ。娘に文句をつけられないよ」
「そう……ですかね……。私結構さんざんなこと榊さんに言ってきた気がしますが……」
美也、両手で顔を覆った。今更ながら恥ずかしくなってきたのだ。
まさか榊が両親のことを知っていたり、美也の記憶にあるより前からの知り合いだったりとは思わなかった。
「私を地中に埋めてください……」
「なんでだ。何になりたいんだお前は」
隣から、榊の平坦な声がした。