「え、えと……」
それは美也が天界の龍神の子孫で、榊にとって庇護対象だったからだ。
……そうと、わかっているのに。
「あ、……りがとう、ございます……」
そこで美也ははっとした。
「あの……神様って信仰されて存在する……みたいな話を聞いたことあるんですけど……無人の神社にいて、そういう心配ってないんですか……?」
参拝客がゼロということはないかもしれないが、神社を管理する人がいないのは問題ではないだろうか。
「確かに、人の想いが神やあやかしに姿形を与える。存在を認識されないと、消えてしまう。俺のこの姿も、龍神とはかくあるもの、と、人間が思った姿ということだな。でも、龍神という存在の認識は各地にあるから、俺のようにずっといる者はそう危機にはならないんだ。地上の龍神より、天界の龍神の方がその危険性は高い。俺たちの役割は人々が生きていられる状態を作り続けることだが、天界の龍神は人の願いを聞き叶えるという役割がある。それを叶えられなかったり、願う人々がいなくなれば、存在は揺らいでいく。まさに美也の言った、信仰がないと神は消えてしまう状態だな」
「むずかしいんですね……」
やはり美也は歴史の授業を聞くように、ほうほう、と頭の中でうなずきながら聞いていた。
同じ龍神様といっても、どこに住んでいるかで役目が違うらしい。
そして人間が思った姿が今の榊なら、神様とはとんでもなく麗しく輝いていると考えられてきたのだろう。
「……これも今更になってしまうんだが、美也の両親は俺の事を知っていたんだ」
「お父さんとお母さんが……ですか?」
「そう。俺が龍神で、茉也(まや)――美也の母が龍神の子孫であることも知って、割と親しくしていた。だからぶっちゃけ、美也が生まれたときから知っている」
「へえ……えええっ!? そんな昔からのお付き合いだったんですか……!? 憶えてないとか私、申し訳なさすぎる……!」
「まあ、美也の霊力を封じたのは、茉也たちに頼まれたからでもあるんだ」
「お母さんに……?」
「そうだ。美也の霊力につられてやってくるあやかしが多くて、それを心配した茉也と友哉(ゆうや)が、俺にどうにか出来ないかって相談してきたんだ。それで、美也の霊力を封じた」
友哉とは父の名前だ。
母の名も父の名も、美也は久しぶりに聞いた。
……ぽろ、と涙がこぼれた。