三年生になってから一度行われた三者面談にはおばが来たが、「美也に無理はさせたくないから、レベルの合ったところを」と、優しいような、裏を返せば頑張る必要もないと言われたようなことを言った。
愛村の家から通える公立でバイトが許されているのは、美也がもっと頑張らないと入れないレベルのところしかない。
美也は頑張りたいのに、環境が許してくれない。
今年二十歳になる従姉の奏は私立の大学に通っているが、大して勉強もせずに遊びまわっているように見える。
そんな学生にはなりたくない美也だ。
そもそも、大学には行かずに働きに出る方が、美也にとっては現実的でもある。
淹れたコーヒーを持って、奏の部屋のドアをノックする。
「奏さん、コーヒー持ってきました」
そう声をかけると、
「うん」
という返事が。
「入っていいよ」くらいないのかと、このままドアにコーヒーぶっかけてやろうかと本気思いながら、どっちに転んでも大丈夫なように覚悟決めてドアを開けた。
奏から部屋に入るよう促しの言葉があってもなくても、その時の気分で怒られる結果はある。
選択肢は、部屋に入る、または、ドアの前に置いておく。
彼氏や友達とオンライン通信中だったら、勝手に入ったら怒られる。
スマホをいじっているだけだったら、ドアの前に置いたら怒られる。
察しろ、ということらしい。いや無理難題ふざけんな。
「失礼します」
まるで職員室にでも入るときのように言った。
中にいた奏は、テーブルとセットのデザインの椅子に膝を抱えるように座って、スマホをいじっていた。
悟られないようにほっと息をつく美也。
「どうぞ」
その言葉は奏に無視される。
そのまま音を立てないように、美也は奏の部屋を出た。
これで今日の雑用扱いは終わりだろう。
ちょっとだけ榊に連絡して、さっきのことを謝って、あとは勉強にあてよう。
おばがいくら美也の進路を決めようとしてきても、美也には美也の考えがある。
そして、それを曲げたくないという意思もある。
この気持ちの強さは、榊がずっとそばにいてくれたおかげだと思っている。
部屋に戻って、榊に連絡しようと鏡を取り出したところで、またいきなりドアが開いた。
てっきりもう呼ばれないと思っていたから、足音にも気を配っていなかった。
「ちょっと、ミルク入ってないじゃない。誰がブラック持って来いって言った」
「え……と……」