「ひどい……ぼく、毎日いっしょうけんめいがんばってるのに……榊さまの長いお説教も聞いてるのに……龍神が巫女さまのこと大事にしてますよって巫女さまの周りの浮遊霊や地縛霊に忠告して回ってるのに……」
「それが余計だとわからないからガキなんだ」
「えっ、そんなことも出来るんですかっ?」
「はいっ。巫女さまに手を出す奴がいないように牽制ですっ」
……美也は開斗に知識の偏りを感じたが、現在の保護者は榊なようなので、口にしていいか悩んだ。
結果、言わなかった。
考えれば、自分への過保護にも偏りがある気がしてきてしまったので。
開斗が、すがるような目で美也を見てきた。
「巫女さま、あの鏡、榊さまなら復元できるんです。ぼくが勝手をしたことは、ごめんなさい。でも、本当にいやだったんですっ」
「開斗くん……実は私、お母さんとおじさんに血のつながりがないって、今日まで知らなかったんです。愛村の人たちがわざと言わなかったのかどうかはわかりませんが……」
美也がそれを知っていたらきっと、今より肩身狭く生きていただろう。
美也を気遣った……というのは、美也には考えにくかったが、申し訳なさばかりで生きてきたわけではなかった。
そして、たくさんの気になることのうちのひとつ。
「……榊さん」
「うん?」
「……お母さんとお父さんの、事故……のことなんですけど……」
心臓がドクドクしてきた。
両親の事故は単独事故だったため、恨む相手もいなく生きてきた。
それが今になって、原因が――理由があったと知れば、遅れて戸惑いと怒りがわいてきた。
「……あれは、美也の両親に非があるわけじゃない、完全な逆恨みだった。だから俺も容赦なく、事故を起こしたあやかしを葬った」
「……あやかしも……死ぬんですか……?」
「……ああ。それ以上は、まだ話したくないな。美也の両親を亡くしてしまったことは、俺にとっても傷だ……守り切れなかった、美也を独りにさせてしまった……その責任は、俺にもある」
ものすごく痛いものを抱えている顔で榊が言うから、美也は一瞬、自分の痛みを忘れた。
そして、そっと榊の腕に触れた。
――榊が美也の頭を撫でることはあったけれど、美也から榊に手を伸ばしたのはこれが初めてだった。