「あやかしが神になったり、人が神になったりすることがあるから、その境界は完全ではないが……あやかしの最高位は鬼、龍神は神に名を連ね、一方であやかしの性質もあるから、正直どっちつかずだな」

榊の説明を、白桜が陰陽師の立場から補足した。

「俺たちは鬼の上に龍神を置いている。鬼は神には数えられないから、やはり高位となると龍神になるんだ。そして龍神は天界と地上とに、住まう者が分かれる。美也の先祖は、天界における龍神の中でも最高神と呼ばれた存在、ということだったな?」

「ああ。彼の方の血脈は、天界には存在しない。だが、天界の龍神が、神として以外に地上に関わることは、今は禁忌とされてしまっている。そして美也の母親はあやかしの介入で亡くなってしまった。天界の龍神にとって、痛恨の極みだ」

「より一層、美也を護らなくてはいけなくなった。が、自分たちでは護ることが出来ない。そのため、地上の龍神で覇権を握っている榊に要請があった、といったところか」

「……それで大体合っている」

榊が、不満げな顔をしながらもうなずいた。

「覇権を握っているって……榊さん、すごいんですか?」

「すごいもなにも、天界の龍神に最高神がいるように、地上の龍神の最高神は榊だ」

白桜が教えてくれたことで、榊の情報がどんどん増えていく。

「榊さん、すごかったんですね……なのに……っ、くくっ」

「え……み、美也?」

いきなり、美也が口元に手を当てて、くくっと苦しそうにしだした。

「だ、大丈夫かっ?」

「だ、だいじょうぶ、です……ごめんなさい、ちょっと笑っちゃって……」

ぷぷぷっと口から笑声がもれる。

(そんなすごい神様が、自分のことくそじじいって言ったり、お使いさんからもくそじじって言われたり……笑うしかないよ……っ)

「ほらあ! 榊さまが変だから巫女さま笑ってるじゃないですかっ! このくそじじっ」

「くそじじいなのは認めるがお前は俺をなんだと思ってるんだ!」

べちっと、榊が使い龍の頭を引っぱたいた。

ぶべっとつぶれたような声を出して、叩かれた頭をさする使い龍。

その漫才のようなやり取りに、美也は臨界点を超えてしまった。

「ふふふっ、はははっ」

お腹を押さえて、しゃがみこんで笑い出した。

「美也!? ワライダケでも食べてしまったか!?」

榊が焦っている。美也自身、こんなに笑ったのは生まれて初めてかもしれない。