「なるほど? それで早く巫女として娶れ、と。開斗(かいと)、現状の行動は俺も榊に賛成する。人には人の法理がある。それによって、美也嬢はまだ結婚など出来ない年だ。今、妻にだの話を持ち出したら、美也嬢の生活にも影響を与えるだけだ。わかるか?」

白桜が左腕を真横に差し出し、そこに向かって話しかける。

美也には見えないが、榊の使い龍という存在がいるのだろう。

「――榊さん」

それまで黙って話を聞いていた美也の声に、榊がびくっと肩を跳ねさせた。

よほど知られたくなかったらしい。

「大体のことはわかりました……まだ納得は出来ていませんが……」

「疑問点は俺が今後解消する。………」

「………」

「………」

美也と榊の間に沈黙が落ちた。

榊は顔色が悪くて、美也はたくさん疑問があるが、榊に訊いても大丈夫なのか悩んだ。

結果、これだけと決めた。

「ひとつだけ聞かせてください。最初に――川辺で逢ったあの時は、偶然ではなかったんですか?」

川辺で、両親のもとへ行こうとした美也を救ってくれたときのことだ。

榊は目を閉じた。

「……美也のことは生まれたときから見守っていった。一人で川辺になんて行くものだから、後をつけていたんだ……。今更こんな話をして、申し訳ない……」

「そうなんですね。いえ、偶然でも必然でもいいんです。ただ、助けてくれたのが榊さんなら……」

美也の、榊への素直な気持ちだった。

「美也……」

「ご先祖様が龍神様とか、まだ意味もよくわかってないです。どういうことなのかとか、すごいことなのかとか……。このお話は、愛村の方たちも聞くことになるんですか?」

「いや、愛村の三人に話すことはない。お前のおじは、あやかしが視える美也の母を快く思っていなかった。だから、そんな奴らに美也がどれほど高貴な存在かを知らしめたい気持ちはあるが、吹聴することではないと考えている。……天界の龍神たちにそそのかされたからではないが、美也が相応の年になったら求婚するつもりでいた。そして、愛村の三人とは絶縁させようと」

「………」

美也の顔が、口を半開きにして固まった。

娶るとか巫女にするという言い方をされて、直接的な言葉がなかったから、美也はそこに気づいていなかった。

娶る、巫女となることの意味を。

――榊は美也を花嫁として迎えるつもりだということに。