「……昔むかしの話だ。人の子と恋仲になった龍の子として生まれた、半神半人があった。その子らは親神の力をつぎ、超常能力があった。それによって繁栄するか、衰退するかはその子孫それぞれだったが……美也の代まで、その血は繋がれた。美也は、残された最後の一筋だ。俺は天界ではなく人界に居を持つ龍神の一角だから、面白半分にその半神半人の子孫を見守ってきた。そして……美也を見つけた」

(本当なんだ)

素直な感想はそれだった。

思い出せば榊は、自分が人間ではないと言ったことはなかった。

本当のことは言わなかったけれど、嘘をつかれたことはなかった。

そう思ったら、榊が口にしたことは本当なんだと腑に落ちた。

「じゃあ……私はその、龍神様の子孫、なんですか……?」

美也が確認すると、榊は真剣な顔でうなずいた。

「……そうだ。美也の母親が、その血筋だ」

「ってことは、おじさんも……?」

おじは、美也の母親の兄だ。

父方母方両方の祖父母がもういなく、父方にはきょうだいがいなかったため、美也はその縁で愛村の家に引き取られた。

「いや……誤解を生まないために話してしまうが、美也の母親とその兄は、親が連れ子同士の再婚だった。だから美也の母とその兄に血縁関係はなく、美也の従姉も、龍神の血は引いていないよ」

え、と息を呑む美也。それは初耳だった。おじから言われたこともない。

「お母さんとおじさんに血縁関係がないのだったら、私も……ってことですよね……?」

おじやおばが美也の母親との関係を知っているとしたら、戸籍上は妹の娘という赤の他人を育てろと押し付けられたことになる。

……もしかしたら、ずっと疎まれていた理由はそれか。

「それで? 榊は美也のあやかしを見る力まで封じて何をする気だったんだ」

白桜の言葉に、考えに落ちていた美也の意識がはっとする。そういえば、霊力を封じて、とか言っていた。

榊は白桜を見据える。

「……今までの彼の方(かのかた)の子孫は、能力の高さから破滅する者が多かった。……美也の両親の事故も、あやかしが原因だ。だから美也には、あやかしなど関わらず普通の人間として生きて幸せになってほしかった。それが理由で……美也の霊力を封じていた」

事故はあやかしが原因? 聞き捨てならない話だ。

だが、美也が問う前に白桜が口を開いた。

「さすがあやかしの最高格、龍神にしか出来ないことか……。榊の理由はわかったが……いずれは美也嬢を巫女にするつもりだったのだろう?」

その問いかけに、榊はしばらく黙ったあと苦々し気に口を開いた。

「……それが俺のできる、美也の護り方だった」