「……誰から聞いたんですか?」
まさか榊の目の前ですぐに肯定することも出来ず、そう返した。
白桜は満足げに顎を引いた。
「用心深いのはいいことだ。ここにね、まだ美也嬢には視えないかもしれないけど、榊の使い龍がいるんだ」
と、白桜が自分の左腕あたりを顎で指す。
「つかいりゅう……?」
「そう、龍神である榊の使役……配下のようなものだよ」
「りゅうじん……?」
美也はつぶやいたあとに榊に目をやれば、気まずそうに視線を逸らされた。
「榊は、この国に住まう龍神の一角(いっかく)。そして美也嬢の母君は、先祖に天界の龍神がいるんだよ」
「先祖に……? てんかいのりゅうじん、ってなんですか……?」
聞いたことのない言葉に、美也の頭はまたぐるぐるし出した。
「簡単に言えば、美也嬢は龍神の子孫ってこと。その龍神が榊ではないけどね。神には、天界にいる神と、この地上にもともと住んでいた神との二種類が存在するんだ。榊は地上にいた龍神で、美也嬢の祖先は、天界にいた龍神だ」
「………」
美也の目が、再び榊を見た。榊は明後日の方を向いている。
そんな話、誰からも聞いたことがない。榊からも。
「じゃあ……榊さんが私を助けてくれたのって……」
「そこは榊の考えだから、本人から聞いた方がいい。今回俺たちが動いたのはあくまで榊の使役に助力をこわれたからだ」
と、白桜はまた軽く自分の左腕に視線をやる。そこに何かがいるように。
「榊さん……教えてくれませんか?」
美也が言うと、榊はむすっとした顔で、少しだけ美也を見た。
その顔は言いたくないと言っている。
「………」
「榊さん、お願いします。私、知らないと……榊さんの傍にいられません」
美也は食い下がる。
榊が人ではないことは考えていたことだったから、衝撃は少なかった。
けれど、幽霊かと思っていたのがまさか神様で、自分も榊と同じ存在の子孫とか、説明が足らなすぎる。
榊は、ため息とともにようよう口を開いた。