「貴様何を考えている! 勝手に美也を御門の敷地に入れるなど!」
榊は怒鳴るが、白桜は払うように手を振った。
「お前が美也嬢に何も話さないから、心配したお前の使い龍が行動を起こしたんだよ。というかお前、美也嬢の霊感を封じていたな?」
「っ……」
すっと鋭い目つきで白桜に睨まれ、榊は歯噛みした。
……霊感を封じていた?
榊の両眼が、透明になっていく。
「……俺から美也を奪うようなら……」
その髪が逆立ち、風が御門別邸に庭を吹き抜けた。
(な、なに……!? やっぱり榊さん、人間じゃない……!?)
「――禁」
白桜が口元に形を作った指をあてて言うと、榊の動きと風が停まった。
白桜は、目を細めて榊を見る。
「荒魂(あらみたま)に落ちる気か、榊」
白桜の手が、また違う形を組もうとしたのを見て美也は白桜と榊の間に割り込んで両腕を広げた。
「つ、月御門さん! 榊さんに乱暴しないでくださいっ。私の恩人なんですっ」
それを見て白桜は黙り、榊は驚いた顔をする。
美也は心臓まで震えながら立ちはだかっていた。
白桜が陰陽師という、普通の人とは違うことはもうわかっている。
ならば美也の命を取るくらい簡単かもしれない。
それでも、震えながらでも、美也にとって榊は守らなければいけない人だった。
大事な大事な、人だ。
ふっと、白桜が唇の端をゆるめる。
「なに。乱暴しようというわけじゃないよ。榊、貴方も一緒にじっくり話そうか」
その白桜の微笑みは美也の見たことがない種類のもので、笑顔なのになぜか背筋が冷えた。
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榊に向けた術を解いた白桜は、「まず」と話を始めた。
美也は榊に駆け寄ったが、触れていいのかわからず、傍らに立つだけだった。
「美也嬢は榊が何者か……というところから悩んでいると聞いたのだけど、合っているかな?」