それは生徒手帳だった。

少し離れた場所にある、由緒正しい学校。旧家の生徒も多いと聞く。

そんなところに美也は、縁もゆかりもない。

「あの、本当に私であってますか? その、お話する相手……」

自分がそんな話に関わっているわけがないとわかっているので、そう問い返した。

対して百合緋は、穏やかにほほ笑んで答える。

「はい。間違いありません。清水美也さん」

(! 名前……私、教えてないよね……?)

背筋が冷えた。榊のことに続き、この人も、人間じゃない何か、とか――

「あ、もしかして不安になっちゃってますか? その、月御門っていうのは、陰陽師の家なんです」

「おん、みょうじ……?」

知ってはいるが、そんなのテレビの中とか物語の中の存在ではないのか。

「はい。詳しいことは、いらしてくださったときにでも。こちらが月御門の家までの地図です。お時間あるときでしたら、いつでもいらしてください。では、私はこれで」

百合緋はぺこりと頭を下げると、小走りで戻っていった。

ぽかんとした美也は、生徒手帳と交換するように渡された紙切れを手にしたまま、百合緋の背を見ていた。

(な、なんだったの、今の……)

いきなり現れて美也の悩みを言い当てたり、名前を知っていたり……百合緋も人間じゃないと疑い出している美也は、ぶるりと震えた、思わず両腕を交差させて自分を抱きしめるようにすると、夏服の半袖からのぞく腕に鳥肌が立っていた。

「――って、本当に早く帰らなくちゃ!」

百合緋の登場で時間を食ってしまったので、いつもの帰宅時間はすぎているかもしれない。

美也は慌てて駆けだした。