「いや、お母さんも一緒に見たけど貴重品も変わらずあるよ。美也の部屋も、あそこまでお前が調べてなかっただろ? もう一度自分のバッグとか調べてみなさい」
言い返す奏と、なだめるようなおじの会話。
お風呂に入っていないけど、今日はもう部屋を出るのはやめようと決める美也だった。
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暗くした部屋でベッドに横になって、昼間のことを思い出す。
奏の騒ぎで感慨にふけるどころではなかった。
おまけに部屋の片づけに時間を取られた上に、奏の騒ぎで疲れたのを自覚していたので、睡眠に時間を使うことにした。
(榊さんが来てくれて……でも、全然騒がれてなかったんだよね……)
榊ほど見た目が整っている人は、小さな公立中学にはいない。だからこそ目立つと思った。
(それで、奏さんが鏡をしまったっていう場所が水浸しになってて、鏡はなくて……)
美也がその水に触れたら、はじかれるように消えてしまった。
(………。いや? 待て待て待て)
今更ながら、理解が現実に追いついてきた。
仰向けだったのを、横向きになって暗闇の中目を開く。
闇に慣れた目は、目の前に置いた自分の手の輪郭は捉えることが出来た。
(ちょっと待て? 色々おかしいことだらけじゃない? 榊さんが学校に来た時は、色々ショックを明かせたこともあって目立たないかなって心配しかしなかったけど、どの世界にただの知り合いの子を心配して侵入してくる人がいる? いくら見た目が若いからって、中学生は冒険しすぎ)
榊なら、まだ教師や出入りの関係者を偽った方が早い。
(それに、なんで誰も榊さんの話をしてないの? 見られていなかったってこと?)
それは難しい。昼休みで色んな場所に生徒があふれている時間だった。誰にも見られないなんて可能だろうか。
(あの鏡も……手品だと思い込んでいたけど、どうして私と榊さんが話すことが出来たの?)
考え出せば、榊にまつわる不思議な出来事は尽きない。
(見た目の変わらない榊さん……。どこに住んでるかも知らないし、どんなお仕事をしてるかも知らない……)
そこでひとつ思い至った。
榊は本当に人間だろうか――?
(幽霊? 私にしか見えない存在とか、そういう理由の方が納得できる……)
老けないことも、不思議なことが出来ることも。