「明日は土曜で仕事は休みだ。和子が朝起きてきたら、僕から説得を試みる」
「そう、わかったわ」
「君も覚悟を決めといてくれ。いつ手術ができるかはまだ未定だが、和子から了承が得られ次第、早急にその準備を進めるから」

 けれど、その気持ちには寄り添えない。

 だって覚悟ってなんなのさ。それってまさか、娘のわたしとお別れする覚悟のこと?

 もうこれ以上、両親の会話を聞いてはいられなかった。

 居た堪れなくなったわたしは、生まれたての小鹿のようにぐらつきながらその場から立ち上がると、覚束ない足で自室へと戻る。

 壁を伝い、懸命に部屋へと向かっている最中は、終始自分の身体が点滅しているような気分になった。

 キケンデス、キケンデス。ソロソロアカニナリマス。

 どこからか聞こえてくる、機械の音声。

 キケンデス、キケンデス。ソロソロアカニナリマス。

 うるさい、と思った。

 わたしはやっぱり信号機。いつ赤に変わるかわからないこんな命と、一体いつまで付き合っていかなきゃならないんだろう。

 だけど付き合いをやめてしまったら、その瞬間に死んじゃうしな。

 なんて考えていたら、視界がじんわり滲んできた。

 涙ぐみながら自室へ着くと、さらに嫌な思いをした。