そんな恐ろしいやり取りを聞いてしまって、わたしは膝から崩れ落ちそうになった。

 俯けば、真下に広がる闇。崖にも似た、不安定な足元。

 どうしてよ、お父さんお母さん……どうしてそこまでして、わたしをアメリカに連れて行きたいの……?

 ドアノブから手を離したわたしは二、三歩後ずさり、背後の壁にとんっと背をつく。

 ガクガクと震える両足で立つことは、難儀だった。
 だからわたしは壁で這わせた背と共に、その場へへにゃりとへたり込む。

 どうして、なんで……なんでアメリカになんて行かなきゃいけないのよっ……そんなことしたら、わたしの命がそこで終わっちゃうかもしれないのにっ……!

 ううっと声を殺して泣いた。鉛のような大きな唾の塊が生産されて、わたしの気道を塞いでいく。

 なんで、どうしてっ……!?

 両親に対する、不審感。

 なんで、なんでなのよっ……!?

 それは言の葉には乗せられない。

 アメリカに行き、天才心臓外科医と呼ばれる名医の手術を施されたところで、わたしが助かる確率は10パーセントしかない。

 それを知っているのにもかかわらず、かたくなにわたしをアメリカへと送り込もうとする両親は、もしかしたらばかなのだろうか。

 わたしには、彼等が理解できなかった。

 大好きなのに、そんな彼等ふたりが悪魔にだって思えてしまった。

 でも、でもね。本当はわかっているんだ。

 お父さんもお母さんも、このままわたしになにもしてあげられないことの方が、辛いんだって。
 アメリカに飛び立つことは、決してわたしの命を諦めるための行動ではなくて、この命を未来へと紡ぐための行動なんだって。

 そんなのわかっているけれど──