「なに、どしたの」
「……」
「おーい、ユーイチさん」
「……」
「ねえ、ユーイチってばっ」
「わっ」

 語調を強めながらユーイチの肩を揺さぶれば、ようやく反応はあった。しかしそのあとも、ユーイチの態度は少し変だった。

「どこに、電話すんの……?」

 だってこんなにもあたり前なことを、真剣に聞いてくるのだから。

 風が吹いて、夏の匂いがした。
 夏と言えばちーちゃん。だから、この匂いもそう。

「どこって、ちーちゃんの都合を聞くんだから、ちーちゃんのスマホに電話するに決まってるでしょ」

 愚問には、さらっと返したわたし。するとユーイチの眉間にしわが寄って、戻された。

「あ、ああそっか。そりゃそうだよな」

 (いびつ)な苦笑い。今度はわたしの眉間にしわが寄る。

「変なの、ユーイチ」
「だ、だって俺、ちーちゃんの連絡先知らないからさ、その発想がなかったんだよ」
「いやいやいや。普通に考えればわかることでしょ」
「ま、まあそうだな。ははっ」

 言って、わたしから外した視線を逃すように、空の高いところへと投げるユーイチ。
 さわさわと揺れる葉の隙間から、飛行機がゴオッという音を立てながら顔を出す。

「なあ、和子」

 ゆうに三百人くらいは搭乗できそうな、大きな旅客機。それを見つめながら、横顔だけでユーイチは聞く。

「和子は俺の父さんのこと、覚えてる……?」