その年の夏休みは、ほとんどを病院の施設内で過ごしていた。

 もしもひとりきりだったら、寂しくてたまらなくて、辛い思い出だけがわたしの人生に刻まれてしまっていただろうけれど、ちーちゃんと出会えたから、仲良くなれたから、その思い出は今も煌々と輝いている。

 退院するまでのたったのひと夏しか一緒に過ごせなかったけれど、ちーちゃんは、かけがえのない友だちだ。

 だからわたしにとって、夏と言えばちーちゃん。ちーちゃん、と言えば夏で間違いなし。それになんと言っても、ちーちゃんは夏生まれだし。

 ひぐらしの声がした。都会よりずっと、活き活きと鳴いている。

「ねえ、ユーイチ」

 ちーちゃん、元気かな。

 の返答をくれなかったユーイチに対して、わたしは再度、彼女の話をする。

「ユーイチも知ってるだろうけど、ちーちゃんの誕生日って八月じゃん。毎回わたし、ちーちゃんの目を見ておめでとうって言えてないから、今年こそはちーちゃんに直接会ってプレゼント渡したいなって思ってるんだけど、もしよかったら、ユーイチもちーちゃんのとこ一緒に行く?今度電話して、都合のいい日聞いてみるからさ。十年ぶりに、ふたりでちーちゃんに会いに行こうよ」

 ね、と言って、わたしはとあるものを取り出して、ユーイチの前で揺らめかせて見せる。
 それは昔、ちーちゃんが作ってくれた鈴つきのお守り。昔はリュックにつけていたけれど、スマホを携帯するようになってからは、ずっとここにつけている。

 凝視するように、そのお守りを見るユーイチ。真顔の彼にどこか引っかかり、わたしは「ユーイチ?」と首を傾げた。