ユーイチは、本当にわたしのことをよくわかっているなあと思う。

 道端で倒れた人間を見て、平常心など保てなかっただろうに、彼が今、精一杯気丈に振る舞おうとしてくれていることは、ほんの少しだけ震えている声から察された。

 ありがと、と小さく呟き、ふうと息を吐く。

 開け放たれた窓の向こう側から聞こえてくるのは、夏に入ってからずっと活発な蝉の鳴き声。

 あ、ひぐらしだ。

 十年前入院していた病院で、一番よく耳にしていたこの蝉の鳴き声は、わたしを当時に浸らせる。

 できることならば、スマホで一日中流しておきたいくらいだ。

 ベッドから両足を下ろしたわたしは、ユーイチと向き合うかたちになった。うちわで顔を扇ぐ彼を見て、少々申し訳なくなる。

「ごめんユーイチ、暑いよね」
「いや、ちょうどいいよ」
「……うそつき」
「ははっ。まあ俺は、オオカミ少年だからな」

 ユーイチは、痩せっぽちなわたしが寒がりなことを知っているから、わたしが部屋(ここ)にいる間は、いつもエアコンをつけないでいてくれている。

 小さい頃からずっとずっと変わらない、ユーイチのぶっきらぼうな優しさに、わたしはいつも支えられている。

「あー、そういえば。一応俺の母さんが、和子の母さんに連絡入れたっぽいけどいいよな?」

 あぐらをかいていた足を伸ばして、ユーイチが言う。

「ベッドに寝かしたままもう少し様子みて、万が一和子が目覚めなかったら、病院に同行してもらわなきゃ困るし。念のために」

 それを聞いて、ユーイチのお母さんにも迷惑かけてしまったかな、と反省した。あとでリビングに顔を出して、謝らなきゃと。