どこかで聞いたことがあるような、その台詞。しかしどうにも思い出せなくて、わたしは頭を横へ傾げた。

「どっかで耳にしたことがあるような気もするけど……なんだっけ、それ……」
「チャップリンがこの世に残した名言のひとつだよ。イギリス出身の、有名なコメディアンの言葉」

 チャップリン。

 その人は、わたしが生まれるよりもうんと前に亡くなった人だと、わたしは知っている。なぜならば、彼にまつわる特集が組まれたテレビ番組を、観たことがあるから。それに彼が出演した作品も、週末のロードショーかなにかで目にした記憶がある。

「人生は、悲劇で喜劇……」

 人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ。

 頭の中、チャップリンの名言が、テメさんの声で反芻された。下まぶたにいくらか居座る涙を指の腹で拭き取るわたしに、テメさんが言う。

「俺はね、奥さんと出会ったことを後悔してはいないし、彼女との間に娘を授かったことも、万々歳だと思ってる」

 だって幸せだったし、とテメさんは付け足して、こう続ける。

「俺の金も、家族を養うために稼いだものなんだから、ふたりがふたりのために使ってくれてるならそれでいいんだ。連絡が取れなくて、顔も見れない今はほんの少し寂しいけどさ。それでも俺は、いつか必ずまたどこかでふたりに会えるって思ってるし、会えたらきっと笑い合えるって、そう信じてる」

 それは、わたしの中にはない考え方だった。

 大切なものをいくつも失くしたのに、未来を悲観せずポジティブに生きるテメさんが、神々しく瞳へ映る。

「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよおだんごちゃん」