さばさばとした態度、とても前向きな発言。

 それなのにわたしは、自分の双眸が徐々に潤んでいくことを止められなかった。

 こんな身勝手な涙は見せられまいと、わたしは顔を斜め下に傾けるけれど、砂利がところどころに散らばっているアスファルトを見つめているだけでも、どんどんどんどん切なくなる。

「え、おだんごちゃん?」

 話を聞いている最中に俯くという、明らかにおかしい振る舞いをしたわたしに、テメさんが明るく話しかけてくる。

「おい、おだんごちゃん。この話は泣くやつじゃないぞ?これは俺の人生珍道中だろっていう、笑える話なんだ。それに俺は、べつに悲しんでねえし。なのにおだんごちゃんが悲しんでちゃあ、意味がわからないだろ」

 泣くな泣くな、と肩をさすられて、図らずとも落ちる涙。

「あらあらまあまあ、結局泣かせちまったよヲイ」

 とテメさんはふざけたように言っていたけれど、実際は困らせてしまったかもしれない。

 テメさんの奥さんはひどい、最低な人だ。それに会社の社長もあり得ない。

 なんて、悪口を一切口にしなかったテメさんを前に言えはしないけれど、わたしはそう思った。

 しばらくして、少しだけ涙が落ち着いて。わたしは顔を僅かに上げた。

「笑える話じゃ、ないよ……」

 口を塞いではいないのに、くぐもった声しか出せなかった。

「こんなの、笑い話になんかならないよっ。悲しくって辛いお話だよっ……」

 この時のわたしは、テメさんに一体なにを求めていたのだろうか。本人が笑っているならばそれでいいって思うのに、酷な過去を平然と話すテメさんのことが、どうしても納得いかなかったのだろうか。

 おだんごちゃん、と穏やかに呼ばれて、視線を交える。

 茶色い瞳の端っこで、鳥が空へと飛び立つのが見えた。

「『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ』って言葉、知ってる?」