その一瞬、ユーイチがなにかおぞましい生き物に見えてしまった。

 なにを言っているんだろう、この人は。頭おかしいんじゃない?

 と、彼をばかにした。

 しかし物憂げな彼の瞳の奥にいるのは、青ざめているわたしで、モノクロの世界で突っ立つ自分はまるで、幽霊みたいだった。

「は……?」

 精一杯、否定する術を探す。

「そんなわけないじゃん。ユーイチ、頭大丈夫?」

 制服のスカートから取り出したスマホの画面をタップして、わたしはユーイチの前で見せつけた。

「これ、わたしの通話履歴。ここに書いてある文字、読めるでしょ?『安藤千尋』って、そう書いてあるでしょう?」

 わたしの通話履歴はここ最近、『安藤千尋』の名前であふれている。

 スクロールしても、どんどん出てくるその名前。ドヤ顔になったわたしの前、ユーイチがおもむろに腰を上げた。

「じゃあ今、電話してみ」
「いいよ」

 顎でくいっと指図されて、わたしはちーちゃんに電話をかける。するといつもの通りに「はい」と可愛らしい声が聞こえてきて、どこかほっとしている自分がいた。

「もしもし、ちーちゃん?」
「なに、和子ちゃん」
「今ユーイチといるんだけどさ、ユーイチったら変なんだよ」
「ええ、なにが変なの」
「だってユーイチったらね、ちーちゃんのこと──……きゃっ」

 そこでスマホを奪われて、わたしはキッとユーイチを睨みつける。

「なにすんのユーイチっ」
「……」
「返してよっ」
「……」

 スマホを掴みにかかるわたしの手を器用に(かわ)して、もの言わず、わたしのことを見下ろすユーイチ。

「ちょっと本当に、返してってば!」

 もてあそばれている意味がわからなくて、イライラするけれど、そんなわたしにユーイチがずっと悄々(しょうしょう)たる表情を向けてくるから、余計に頭が混乱する。

 なんなのよユーイチっ……一体なにがしたいの……!