ざる蕎麦がみっつ、テーブルに並んだ。昼時だけど、店内は空いていた。
「うちのお父さんねえ、和子ちゃんのこと本当に大好きだったのよ」
蕎麦を数本箸で摘まみ、つゆにつけるユーイチのお母さん。
「ようやく自分の居所を知ってもらえて、きっと天国で嬉しく思ってるわ」
つゆから引き上げたそれを、啜って食べる。
「うん、美味しい。和子ちゃんもさあ、食べて食べて」
そしてまた、繰り返されるその所作。
わたしは一度は持った箸を箸置きに戻し、「あの」と切り出す。
「ユーイチのお母さん、ひとつ聞いていいですか」
「なあに?」
「どうしてわたしに、今までユーイチのお父さんが亡くなったこと隠してたの?」
「え……」
「ついこの前ユーイチが話してくれるまで、わたし全く知らなかった。うちのお母さんやお父さんからも一切聞いたことないっ。ユーイチのお父さんがわたしのことを大好きでいてくれたんだったら、毎年だってお墓参りに来たかったのに」
早口でそう言うと、ユーイチのお母さんの黒目が横に動いた。
彼女の眼差しが向けられたのは、わたしの隣。そこに座るのはユーイチだ。
「ユーイチ。あなた、和子ちゃんに全部話したわけじゃないの?」
「あ、いや。全部っつーか、父さんが十年前に亡くなったことは言ったけど」
「あら、それだけ?」
「ん……」
なんなんだ、この会話は。
と思った。
全部ってなに、それだけってなに。
と。
「うちのお父さんねえ、和子ちゃんのこと本当に大好きだったのよ」
蕎麦を数本箸で摘まみ、つゆにつけるユーイチのお母さん。
「ようやく自分の居所を知ってもらえて、きっと天国で嬉しく思ってるわ」
つゆから引き上げたそれを、啜って食べる。
「うん、美味しい。和子ちゃんもさあ、食べて食べて」
そしてまた、繰り返されるその所作。
わたしは一度は持った箸を箸置きに戻し、「あの」と切り出す。
「ユーイチのお母さん、ひとつ聞いていいですか」
「なあに?」
「どうしてわたしに、今までユーイチのお父さんが亡くなったこと隠してたの?」
「え……」
「ついこの前ユーイチが話してくれるまで、わたし全く知らなかった。うちのお母さんやお父さんからも一切聞いたことないっ。ユーイチのお父さんがわたしのことを大好きでいてくれたんだったら、毎年だってお墓参りに来たかったのに」
早口でそう言うと、ユーイチのお母さんの黒目が横に動いた。
彼女の眼差しが向けられたのは、わたしの隣。そこに座るのはユーイチだ。
「ユーイチ。あなた、和子ちゃんに全部話したわけじゃないの?」
「あ、いや。全部っつーか、父さんが十年前に亡くなったことは言ったけど」
「あら、それだけ?」
「ん……」
なんなんだ、この会話は。
と思った。
全部ってなに、それだけってなに。
と。