りんを鳴らしたお坊さんがお経を読み始めると、その瞬間を待ち侘びていたかのように、蝉たちが鳴いた気がした。

 墓石から上げた視線の先には、青い空と真っ白な入道雲。じりじりと大地を焦がす太陽が、夏をより夏らしく演出している。

 お墓の下に、ユーイチのお父さんはいない。彼は十年前の夏、海に溶けた。

 それでも魂だけでも今ここに、戻って来ているのだろうか。

 ユーイチのお父さん……

 しばらく空を見上げていれば、そこに一機の旅客機が映り込む。
 あんなに大きくて重いものが、空を飛んでいることも信じられないけれど、あれが落ちてしまうことの方が、もっと信じられないと思った。

 さりげなく、隣のユーイチに目をやった。彼もまた、お墓ではなく空を見ていた。