もう、と荒く息を吐いた母親にその手を引っ張られて、余儀なく立ち上がる玲ちゃん。

 わたしとは目も合わすこともなく、その場を立ち去ろうとした母親の横でわたしを見上げた彼女は、「ばいばい」ともう一方の手を振ってきた。

「おねえちゃん、またね」
「あ、えと、」
「ハンバーガー、おだいじに」

 ハンバーガーおだいじに。

 なんて可愛らしい話し言葉だろうと思った。そしてそれと同時に、なんて優しい子なのかと。

 踵を返した玲ちゃんとその母親は、駐車場内に停めてあったグリーン色の軽自動車の扉を開け、助手席へ座る人物へ声をかける。

「お待たせ、お父さん。玲が急に走ってっちゃうから焦った〜」
「だってねおじいちゃん、ハンバーガーがね」
「もうハンバーガーの話はいいってば」
「えー、けちい」

 車の扉が閉まるまで、聞こえた彼女たちの会話。

 走り出したグリーン色を目で追って惚けていると、いつの間にやらユーイチが、わたしのすぐ隣に立っていた。

「今のって、この前写真で見たテメさんの元嫁と娘だよな?」
「うん、そうだと思う」
「まじか……」
「ね。まじか、だよね……」

 言いようのない感情が、お腹の底から湧き上がって、鳩尾あたりが疼き出す。