海に入水さえしなければ、砂浜に腰を下ろすくらいならいいのだろうか。

 と、考えている間に、双方のハンバーガーのテリヤキソースが包装紙の下方に溜まって染みていく。

「わ、やっべえ」

 それに気付き慌てたユーイチが、急ピッチで食べ始めた。
 あれよあれよという間に完食した彼は、くしゃっと丸めた包装紙をおにぎりのように固めて言う。

「和子のもソース垂れてきてんぞ。とりあえず食っちゃわないと、服につく」
「あ、うんっ」

 もはや選択の余地はなし。

 たくさんの車両に囲まれたこんな場所で摂る夕飯は好ましくないが、足元の地面にポタポタと落ちる茶色いソースに焦ったわたしも、速やかにハンバーガーを口に運んだ。

「ん?和子、どうした?」

 しかし、ユーイチのすぐ後ろ。そこに見えた人影に、わたしの手は包みごとそれを落としてしまった。

「あ!ハンバーガー!」

 突として背後から発された大声に、ユーイチがびくんと肩を上げて振り返る。
 しかし後ろへとひねった彼の首がすぐに戻されたのは、その声の持ち主が彼を追い越し、わたしの方へと駆けてきたから。

「あーあ!おちちゃった!もったいなーい!」

 そう言って、わたしの足元でしゃがみ込んだその子は、三歳くらいの女の子。

 ひまわり柄の黄色いワンピースで身を包み、濡れた髪の毛を後ろでひとまとめに結っているその子は、わたしの記憶にある顔をしていた。

「これ、もうたべれないのー?」

 人差し指でつんつんとバンズを突ついて、わたしのことを見上げる彼女。

 実際に見る彼女は、写真で見る彼女よりもテメさんとそっくりだ。

「あ、あなた…れ……」
「うん?」
「あなた……れい──」

 玲ちゃんでしょ。