夏休みに入っても2人の日常が変わることはなかった。
いつもと同じようにどちらかの家で夕飯を食べ、くだらない話をしてのんびり時を過ごして、終電ギリギリで帰っていく。
変わった事とすれば、昼間もお互いに用事がない日に会うようになった。
駅や適当なカフェで待ち合わせをして、買い物をする時もあれば、そのまま家に行ってのんびりする事もあれば様々だ。今まで長期休みに入ると自堕落で昼夜逆転した生活を送っていた俺にとっては大きな進歩だった。
だがこれでも大3の夏。将来についてやっぱり焦る。例えば、気まぐれに連絡した颯太が下調べなどしっかり準備を始めていると聞いた時、SNSでそんな内容を呟いているのを見た時。何もやってない自分に焦ると同時に何をやればいいか分からなくなる。そして将来を考える度、人を不幸にしたような人間が幸せな未来を掴んでもいいのか、と不安になるのだ。
そんなある日だった。いつものように、俺の部屋で智明と二人、夕飯を食べながら話している時だった。
「そういやさ、今日昼間に親から電話かかってきてさ」
その言葉を聞いて思わず俺は固まる。俺が原因だったとしても、あの旅を壊したのは1本の電話からだった。
不審がられないよう、それでも怖々と聞く。
「なにはなしたの?」
「ただの近況報告とかそんな話だよ。まあ勉強とか私生活とか?あ、あとは就職とか将来のこともちらっと話したな」
その言葉を聞き、俺は怯える。まだ智明は縛られているんだろうか。あの時俺がやらかさなければ、俺じゃなければ。焦りと罪悪感から上手く声が出せない。息が吸いずらい。普段を装おうとするも、罪悪感と自己嫌悪がぐるぐると頭の中を渦巻く。
訝しぐような心配するような目で智明が見てくる。どうしよう、何か言わなきゃ、誤魔化さなきゃ。そう思ってもこれ以上罪悪感に落ちないようにするので精一杯だった。
ああ、何か言おうとしてる。なんて言うんだろう。やっぱり俺のせいだって責めるのかな、一緒にいるなんてやっぱりできなかったんだろうか。俺がもっと上手くやれてたら、もしも、もし
「なあ、裕貴。明日空いてたら、いや明日じゃなくても良いから。2人であの夏のやり直しをしないか?」
「あの時と同じ時間に同じ駅で待ち合わせてさ、電車乗り継いであの日行けなかった海まで行くんだ。」
思いもよらない提案に下を向いていた目線が思わず智明の方を向く。
智明はそれをちらっと見たかと思うと話を続ける。
「きっと今の俺らなら大丈夫だ。それにさ、失敗のまんまは嫌だしさ。いつなら空いてる?来年は忙しくなるだろうし出来れば今年の夏に行きたいよな」
生き生きとそんなふうに語る智明に、思わず頷く。
言わないと。なにか、何かしら言わないと!
「あ、明日空いてると思う」
やる気はなかったあの夏の旅のやり直し。でもあんな風に楽しそうに語る智明につられてしまった。
俺が出したその声に食いついた智明はどんどんと予定を決めルートを調べ始めている。
「確か最終目的地って○○浜だったよな?」
と隣の県にある穴場の砂浜の名前を出す。よく覚えてるな、なんて関心しながら頷くとスマホでルート検索のアプリに打ち込む。
「お、出た出た。確かあの時は9時半集合とかだったよな?どうせなら同じ時間集合で行こうぜ。ちょうどいいルートもあるしさ。」
そう笑いかける智明にうんともううんとも分からない曖昧な言葉を返す。
そんな俺を見かねたのか智明が続ける。
「明日、いつもより早いし、旅になるからさ。今日は早く帰ってお互いちゃんと寝るぞ。それで明日、前の分も思いっきり楽しもうよ」
そんなふうに言った彼は有言実行とでもいうようにいつもより数時間早く帰って行った。
1人になった部屋でやることも無く寝る支度をしながら考える。どうして智明はあんな事を言ったのか。あの旅こそが諸悪の根源で、あれがなければもっといい未来があったはずだというのに。なぜあんなにも楽しそうに語るのか。そんな事を考えながら布団に入る。いつもよりずっと早いせいか寝付けずにいる俺は、昔の旅を思い出した。
いつもと同じようにどちらかの家で夕飯を食べ、くだらない話をしてのんびり時を過ごして、終電ギリギリで帰っていく。
変わった事とすれば、昼間もお互いに用事がない日に会うようになった。
駅や適当なカフェで待ち合わせをして、買い物をする時もあれば、そのまま家に行ってのんびりする事もあれば様々だ。今まで長期休みに入ると自堕落で昼夜逆転した生活を送っていた俺にとっては大きな進歩だった。
だがこれでも大3の夏。将来についてやっぱり焦る。例えば、気まぐれに連絡した颯太が下調べなどしっかり準備を始めていると聞いた時、SNSでそんな内容を呟いているのを見た時。何もやってない自分に焦ると同時に何をやればいいか分からなくなる。そして将来を考える度、人を不幸にしたような人間が幸せな未来を掴んでもいいのか、と不安になるのだ。
そんなある日だった。いつものように、俺の部屋で智明と二人、夕飯を食べながら話している時だった。
「そういやさ、今日昼間に親から電話かかってきてさ」
その言葉を聞いて思わず俺は固まる。俺が原因だったとしても、あの旅を壊したのは1本の電話からだった。
不審がられないよう、それでも怖々と聞く。
「なにはなしたの?」
「ただの近況報告とかそんな話だよ。まあ勉強とか私生活とか?あ、あとは就職とか将来のこともちらっと話したな」
その言葉を聞き、俺は怯える。まだ智明は縛られているんだろうか。あの時俺がやらかさなければ、俺じゃなければ。焦りと罪悪感から上手く声が出せない。息が吸いずらい。普段を装おうとするも、罪悪感と自己嫌悪がぐるぐると頭の中を渦巻く。
訝しぐような心配するような目で智明が見てくる。どうしよう、何か言わなきゃ、誤魔化さなきゃ。そう思ってもこれ以上罪悪感に落ちないようにするので精一杯だった。
ああ、何か言おうとしてる。なんて言うんだろう。やっぱり俺のせいだって責めるのかな、一緒にいるなんてやっぱりできなかったんだろうか。俺がもっと上手くやれてたら、もしも、もし
「なあ、裕貴。明日空いてたら、いや明日じゃなくても良いから。2人であの夏のやり直しをしないか?」
「あの時と同じ時間に同じ駅で待ち合わせてさ、電車乗り継いであの日行けなかった海まで行くんだ。」
思いもよらない提案に下を向いていた目線が思わず智明の方を向く。
智明はそれをちらっと見たかと思うと話を続ける。
「きっと今の俺らなら大丈夫だ。それにさ、失敗のまんまは嫌だしさ。いつなら空いてる?来年は忙しくなるだろうし出来れば今年の夏に行きたいよな」
生き生きとそんなふうに語る智明に、思わず頷く。
言わないと。なにか、何かしら言わないと!
「あ、明日空いてると思う」
やる気はなかったあの夏の旅のやり直し。でもあんな風に楽しそうに語る智明につられてしまった。
俺が出したその声に食いついた智明はどんどんと予定を決めルートを調べ始めている。
「確か最終目的地って○○浜だったよな?」
と隣の県にある穴場の砂浜の名前を出す。よく覚えてるな、なんて関心しながら頷くとスマホでルート検索のアプリに打ち込む。
「お、出た出た。確かあの時は9時半集合とかだったよな?どうせなら同じ時間集合で行こうぜ。ちょうどいいルートもあるしさ。」
そう笑いかける智明にうんともううんとも分からない曖昧な言葉を返す。
そんな俺を見かねたのか智明が続ける。
「明日、いつもより早いし、旅になるからさ。今日は早く帰ってお互いちゃんと寝るぞ。それで明日、前の分も思いっきり楽しもうよ」
そんなふうに言った彼は有言実行とでもいうようにいつもより数時間早く帰って行った。
1人になった部屋でやることも無く寝る支度をしながら考える。どうして智明はあんな事を言ったのか。あの旅こそが諸悪の根源で、あれがなければもっといい未来があったはずだというのに。なぜあんなにも楽しそうに語るのか。そんな事を考えながら布団に入る。いつもよりずっと早いせいか寝付けずにいる俺は、昔の旅を思い出した。