「「かんぱーい!」」
大学近くの居酒屋、生ビールのジョッキをぶつけ乾杯する。何を話そうか迷っていると智明の方から話をふられる。
「今日はありがとうな、昨日も言ったけど、また仲良くなりたいんだよ」
いきなりに本題にはいられたような、急な話題に驚き曖昧な返事しか出来ない。それに俺は、智明と仲良くなるべきでは無いのだ。また、智明を傷つけ自由を縛ってしまう恐怖がある。
そんな事を考えつつ、近ずきすぎないよう気をつけて会話を重ねる。とりあえずと頼んだ料理で段々と机が埋め尽くされていくなかで食べながら、飲みながら語り合っていく。お互いに、中3のあの頃の出来事は話には出さずに。

「そういえばさ、なんで智明は急に野村先生の授業来るようになったの?」
「3年になるまで見かけた事すらなかったしさ」
ずっと疑問に思っていた事を口に出す。うちの大学はワンキャンパスの大学で、そこまで広い敷地な訳でもない。その上2人とも文系の学部だ。ここまで一度も授業が被らないのは中々無いはずなのだ。だからこそずっと気になっていたことなのだが、酔いに任せて話の流れで聞いてみる。
「えっとねー、俺元々短大卒でさ。ここの大学今年から編入してきたんだよ」
智明の答えに驚きが隠せない。中学生の頃智明はクラスで1位2位を争うほどに頭が良く、県内でも有数の進学校に進んでいたはずだ。進学先が決まる頃にはもう話してすらいなかった俺はクラスメイトの誰かから又聞きのように知っただけなのだけれど。
とにかく智明が一度短大に行ったことがかなり意外で思わず固まってしまう。するとそれをそれを察したのか説明が入る。
「多分裕貴は知ってると思うけど、高校は良いとこ入ったんだよ?でもそれで疲れきっちゃって。燃え尽き症候群ってゆーの?それでゆっくり過ごしてたら一気に置いてかれて。今まで努力だけでどうにかしてきたのが出来なくなったんだから当たり前なんだけどさ。それで燻ってるうちにあっという間に大学受験ってなってるし、でも上手く頑張れなくて、志望大学落ちたんだ。だから短大入ってどっかの四年制大学に編入するって形になって、偶然入ったのがここだったって感じかな。」
智明がなんてことないように語ったそれは、確実な挫折で、簡単に突っ込んでいいものじゃないような、そんな気がしてしまって。上手く反応しきれず微妙な間ができる。
「ああ、あんま気にしないでよ?僕はもう吹っ切れてるし短大生は楽しかったしさ。」
そう言った智明はきっと本心なのだろう。だが同時に『短大生''は''』と言ったのが少し引っかかる。まるでそうでは無いところがあったような。そこまで考えて自己解決するのだ。だって当たり前だ。俺があいつの自由を奪ったし、厳しい環境に変えてしまった。俺のせいなのだ。それなのにわざわざ仲良くなりたいと言う智明の意図は分からない。それでも、その願いに付き合うのも償いだと言い聞かせて、距離を置けない狡い自分を見ないふりをした。