臨時として智明と同じあの授業が入っていると気づいたのは、浮ついた足取りで帰ってきて少し経った後の事。あったらどんな反応をすれば良いのか悩みつつ、昨日と打って変わって気まずさの混じった少し重い足を動かし大学に来たのが今日の朝。
そして今、もうすぐ始まる件の講義を前に教室へ入るのを少し躊躇っている。
と、後ろから声がする。
「裕貴、やっほ」
昨日からずっと悩みの種である彼はそう声を掛けてきた。
「お、おう。その、昨日はありがとう。助かったよ」
急に現れた本人にどぎまぎしながらもそう告げる。
未だに信じきれないのだ。あいつがまた俺に話しかけてくれた事が。
なんて言われるか、緊張しながらも教室へと入りいつものように並んで席へ座る。話すことが無いが、何もしていないのも気まずいと感じた俺は授業に必要なものを取り出す振りをしてカバンを漁っていると智明が声をかけてくる。
「ねえ、今日この後空いてる?」
何をする予定なのかも分からないその問いに警戒しながらも今日のこの後の事を考えるが今日取っているのはこの授業で終わりだしバイトのシフトも空いている。それに、どれだけ言い訳を重ねてもやっぱり俺は智明と居れるのがどうにも嬉しいのだ。
「空いてると思うけど、どうして?」
すこし緊張しているせいか思ったように話せない。
少し硬い声になったその返事を気にする様子もなく智明が応える
「良かったらさ、2人で飲み行こうよ」
思ってもいなかった答えが返ってきて一瞬固まる。
大学生としては良くある会話なはずなのだが、智明のイメージは中3で止まってるのだ。それに、今の智明でもそうゆう事を言うのは想像がつかなかった。
「ああ、そうだな」
必死に頭を回して出した返答はやっぱりいつもの俺な感じがしない。でも、いいのかもしれない。いつもの、適当に生きてる今の俺では智明は話しかけてくれなかったかもしれないから。