昼食を食べ終え、午後の授業を受けるため教室に入ってすぐの辺りの適当な席に座る。
まだ授業開始まで少し時間があるため人はまばらにいるだけだった。普段授業が被ることの多いイツメンだが、この授業は俺しか取っていなかったため、必要なものを出して少しぼーっとする。
スムーズな大学生活を送るためにも友人は大切だし一緒にいればそれなりに楽しいがずっと一緒ではやはり疲れるのだ。過去問や課題など面倒な事もあるが授業を組む時は毎回意図的に1つは知り合いがいなさそうなものを選ぶようにしている。
春頃の過ごしやすい気温におそらく夢見が悪かった事が原因であろう眠気にうつらうつらしていると声をかけられる。
「あの、隣いいですか?」
声のする方向を向いた俺は目を見開く。そこには人当たりの良さそうな青年が1人机の横に立っていたのだが、何よりその青年が今朝の夢に出てきたあいつと雰囲気が似てるのだ。まだ確定したわけでは無いが声も忘れた記憶の中のあいつに似ている。
「あの、大丈夫ですか?」
思わず目を見開いたまま固まってしまっているとまた声をかけられる。
「は、はい。どうぞ」
はっと正気に戻った俺は慌てて返事をし正面を向くがどうにも隣が気になる。横から見た姿は記憶より大人びているもののほとんど同じだ。あくまで可能性でしかないそれを聞くのはさすがに気が引けた俺はそれでも気になって授業が始まったあともちらちらと横を伺ってしまった。
あれから数ヶ月、毎週同じ教授のこの授業で会い、成り行きから隣に座ってはいるものの、話すこともせずただ並んで座っているだけなのだ。
まだあいつだと決まった訳では無いが、こうやって並んで授業を受けていると中3の夏、仲良くなった少し前の事を思い出す。
俺とあいつは元々同じクラスだったのだが殆ど関わりがなく、夏休み前のどこかで行われた席替えで隣になるまでは用事がある場合に少し話すだけの関係性だった。確かこの時も隣の席になったはいいものの、全く話したりすることはなく、気まずい時間をすごしていた。その上その当時の俺は部活を引退して色々な事が変わり、無くなり、無気力になっている頃だった。そんな俺を見越してか親が入るよう言ったその塾にもあいつはいて、奇しくもまた隣の席だったのだ。おかげで世間話をするくらいにはなったがその程度だった。それでもあいつの隣で授業を受けるというのはあの時の、まだ罪を犯す前の記憶を思い出す。
隣にいるあいつに似た彼に話しかけようと何度も考えた。だが今更会ったとしてあいつの事を苦しめた俺が今更話すなんて出来るはずもないし向こうだって許してくれるか分からない。
『お名前、なんていうんですか』
バレなければ、お互いに知らなければまだ並んでいられる気がしてついその一言を言う事が出来ないのだ。
まだ授業開始まで少し時間があるため人はまばらにいるだけだった。普段授業が被ることの多いイツメンだが、この授業は俺しか取っていなかったため、必要なものを出して少しぼーっとする。
スムーズな大学生活を送るためにも友人は大切だし一緒にいればそれなりに楽しいがずっと一緒ではやはり疲れるのだ。過去問や課題など面倒な事もあるが授業を組む時は毎回意図的に1つは知り合いがいなさそうなものを選ぶようにしている。
春頃の過ごしやすい気温におそらく夢見が悪かった事が原因であろう眠気にうつらうつらしていると声をかけられる。
「あの、隣いいですか?」
声のする方向を向いた俺は目を見開く。そこには人当たりの良さそうな青年が1人机の横に立っていたのだが、何よりその青年が今朝の夢に出てきたあいつと雰囲気が似てるのだ。まだ確定したわけでは無いが声も忘れた記憶の中のあいつに似ている。
「あの、大丈夫ですか?」
思わず目を見開いたまま固まってしまっているとまた声をかけられる。
「は、はい。どうぞ」
はっと正気に戻った俺は慌てて返事をし正面を向くがどうにも隣が気になる。横から見た姿は記憶より大人びているもののほとんど同じだ。あくまで可能性でしかないそれを聞くのはさすがに気が引けた俺はそれでも気になって授業が始まったあともちらちらと横を伺ってしまった。
あれから数ヶ月、毎週同じ教授のこの授業で会い、成り行きから隣に座ってはいるものの、話すこともせずただ並んで座っているだけなのだ。
まだあいつだと決まった訳では無いが、こうやって並んで授業を受けていると中3の夏、仲良くなった少し前の事を思い出す。
俺とあいつは元々同じクラスだったのだが殆ど関わりがなく、夏休み前のどこかで行われた席替えで隣になるまでは用事がある場合に少し話すだけの関係性だった。確かこの時も隣の席になったはいいものの、全く話したりすることはなく、気まずい時間をすごしていた。その上その当時の俺は部活を引退して色々な事が変わり、無くなり、無気力になっている頃だった。そんな俺を見越してか親が入るよう言ったその塾にもあいつはいて、奇しくもまた隣の席だったのだ。おかげで世間話をするくらいにはなったがその程度だった。それでもあいつの隣で授業を受けるというのはあの時の、まだ罪を犯す前の記憶を思い出す。
隣にいるあいつに似た彼に話しかけようと何度も考えた。だが今更会ったとしてあいつの事を苦しめた俺が今更話すなんて出来るはずもないし向こうだって許してくれるか分からない。
『お名前、なんていうんですか』
バレなければ、お互いに知らなければまだ並んでいられる気がしてついその一言を言う事が出来ないのだ。