ここには俺を傷つける人は誰もいない。透にぃはずっとそばにいると言ってくれた。透にぃとのお別れにも、その後のまた味方のいなくなった学校生活に怯える必要もない。大好きな人と二人きりのネバーランド。俺のピーターパンが連れて来てくれた理想の世界。
「透にぃ、大好き」
「ありがとね」
綺麗な星空の下で、恋人になってくれた透にぃと手を繋ぐ。昼間みたいな友達の繋ぎ方じゃなくて、指を絡めた。それだけで心臓が爆発しそうになって、それ以上のことはできそうにない。色々あったけれど、今、世界で一番幸せだ。
「透にぃ、俺、生きててよかった」
「よかった、潤くんが笑ってくれて。僕なんかじゃ頼りないと思うけど、ずっと僕が守ってあげるからね」
そう答える透にぃの声も震えていた。
「透にぃ……泣いてるの……?」
腕を離して透にぃの顔を見る。透にぃの頬を涙が伝っていた。
「大丈夫だよ。僕はなんともないから。僕は大丈夫だから」
大丈夫って言ってる人は大丈夫じゃない。俺がそうだった。
ここで、俺の頭の中でパズルのピースがハマるみたいに今までのことから一つの仮説が思い浮かぶ。
変な時期に東京の名門校から転校してきた理由。異様に低い自己肯定感。すぐに謝る癖。沢井先輩による身長や声に対するからかい。俺が園崎たちにやられたことやリストカットをしていることに対して勘が良かった理由。
いつでも俺が欲しい言葉をくれたのは、自分が一番言ってほしかったことだからじゃないだろうか。俺と同じように死にたかったんじゃないだろうか。
「あのさ、透にぃ、俺透にぃのこと本気で好きなんだ。だからさ、俺の好きな人のこと悪く言わないでほしい。僕なんか、とか言わないでほしい。年下の癖に何生意気言ってんだって感じだけどさ……」
分かる。世界中から否定されたら、自分に自信なんて持てなくなる。そんなの俺が一番分かっている。だから、この言葉は俺のエゴだ。
「誰が何と言おうと、透にぃは世界で一番かっこいい男の人だよ。自信もってほしい」
透にぃのことを思いっきり抱きしめる。
「俺も透にぃの力になりたい。自分の問題も解決できないのに何言ってんだって思われるかもしれないけど、話聞くくらいはできるからさ」
「えっ……どうしたのいきなり? 僕は大丈夫だよ」
透にぃの声が明らかに動揺している。今まで友達がいなかったから分からなかったけれど、自分ではバレていないと思っていても嘘ってこんなに分かるものなのか。
「先輩たちが、透にぃが月ヶ岡から転校してきたって話してるの聞いちゃったんだ」
秘匿した傷痕を暴くことは暴力か、救済か。透にぃにリストバンドのことがバレた時はどうしたらいいか分からなくなって泣いてしまったけれど、結果的に透にぃは俺をあの地獄から連れ出してくれた。俺にとっては間違いなく救済だった。
「月ヶ岡ってすごく入るの大変な私立じゃん。やめるってことはよっぽどのことがあったんでしょ?」
透にぃは優しいから、自分がしてほしかったことを俺にしてくれている。だから、透にぃも本当は気づいてほしいはずなんだ。声に出せないSOSに。
「よっぽどのことって何? 僕、全然分かんないんだけど」
目が泳いでいる。俺もこんな風にしどろもどろになっていたのだろうか。心の中で、助けてと叫びながら。
「その……俺と同じようなこととか……」
いじめで転校したんだろ? とまでストレートには言えなくて、少しだけオブラートに包んだ。透にぃの顔が引きつる。その後、大きなため息をついた。
「バレちゃった。悪いことってできないもんだね」
透にぃは顔を伏せた。
「透にぃは悪くないよ。いじめる側が100%悪いに決まってるじゃんか」
宝物のリストバンドを奪われたのは俺がボーっとしていたからで、俺が悪いんだと思っていた。でも、透にぃが俺は悪くないと言い切ってくれた。だから今、かろうじて生きていられる。
だから、今度は俺が救うんだ。月ヶ岡のいじめっ子に壊された透にぃの心を。
「潤くんはさ、僕が月ヶ岡でいじめられて学校辞めたと思ってる?」
透にぃは顔を上げて俺を見る。
「違うよ。月ヶ岡の先生も友達もみんないい人だった」
俺が言葉を発する前にはっきりとした口調で告げた。
「だって、さっきいじめで転校したって……」
「僕、加害者側だから」
世界から音が消えた。透にぃは静寂の中、東京で何があったかを語り出した。
「透にぃ、大好き」
「ありがとね」
綺麗な星空の下で、恋人になってくれた透にぃと手を繋ぐ。昼間みたいな友達の繋ぎ方じゃなくて、指を絡めた。それだけで心臓が爆発しそうになって、それ以上のことはできそうにない。色々あったけれど、今、世界で一番幸せだ。
「透にぃ、俺、生きててよかった」
「よかった、潤くんが笑ってくれて。僕なんかじゃ頼りないと思うけど、ずっと僕が守ってあげるからね」
そう答える透にぃの声も震えていた。
「透にぃ……泣いてるの……?」
腕を離して透にぃの顔を見る。透にぃの頬を涙が伝っていた。
「大丈夫だよ。僕はなんともないから。僕は大丈夫だから」
大丈夫って言ってる人は大丈夫じゃない。俺がそうだった。
ここで、俺の頭の中でパズルのピースがハマるみたいに今までのことから一つの仮説が思い浮かぶ。
変な時期に東京の名門校から転校してきた理由。異様に低い自己肯定感。すぐに謝る癖。沢井先輩による身長や声に対するからかい。俺が園崎たちにやられたことやリストカットをしていることに対して勘が良かった理由。
いつでも俺が欲しい言葉をくれたのは、自分が一番言ってほしかったことだからじゃないだろうか。俺と同じように死にたかったんじゃないだろうか。
「あのさ、透にぃ、俺透にぃのこと本気で好きなんだ。だからさ、俺の好きな人のこと悪く言わないでほしい。僕なんか、とか言わないでほしい。年下の癖に何生意気言ってんだって感じだけどさ……」
分かる。世界中から否定されたら、自分に自信なんて持てなくなる。そんなの俺が一番分かっている。だから、この言葉は俺のエゴだ。
「誰が何と言おうと、透にぃは世界で一番かっこいい男の人だよ。自信もってほしい」
透にぃのことを思いっきり抱きしめる。
「俺も透にぃの力になりたい。自分の問題も解決できないのに何言ってんだって思われるかもしれないけど、話聞くくらいはできるからさ」
「えっ……どうしたのいきなり? 僕は大丈夫だよ」
透にぃの声が明らかに動揺している。今まで友達がいなかったから分からなかったけれど、自分ではバレていないと思っていても嘘ってこんなに分かるものなのか。
「先輩たちが、透にぃが月ヶ岡から転校してきたって話してるの聞いちゃったんだ」
秘匿した傷痕を暴くことは暴力か、救済か。透にぃにリストバンドのことがバレた時はどうしたらいいか分からなくなって泣いてしまったけれど、結果的に透にぃは俺をあの地獄から連れ出してくれた。俺にとっては間違いなく救済だった。
「月ヶ岡ってすごく入るの大変な私立じゃん。やめるってことはよっぽどのことがあったんでしょ?」
透にぃは優しいから、自分がしてほしかったことを俺にしてくれている。だから、透にぃも本当は気づいてほしいはずなんだ。声に出せないSOSに。
「よっぽどのことって何? 僕、全然分かんないんだけど」
目が泳いでいる。俺もこんな風にしどろもどろになっていたのだろうか。心の中で、助けてと叫びながら。
「その……俺と同じようなこととか……」
いじめで転校したんだろ? とまでストレートには言えなくて、少しだけオブラートに包んだ。透にぃの顔が引きつる。その後、大きなため息をついた。
「バレちゃった。悪いことってできないもんだね」
透にぃは顔を伏せた。
「透にぃは悪くないよ。いじめる側が100%悪いに決まってるじゃんか」
宝物のリストバンドを奪われたのは俺がボーっとしていたからで、俺が悪いんだと思っていた。でも、透にぃが俺は悪くないと言い切ってくれた。だから今、かろうじて生きていられる。
だから、今度は俺が救うんだ。月ヶ岡のいじめっ子に壊された透にぃの心を。
「潤くんはさ、僕が月ヶ岡でいじめられて学校辞めたと思ってる?」
透にぃは顔を上げて俺を見る。
「違うよ。月ヶ岡の先生も友達もみんないい人だった」
俺が言葉を発する前にはっきりとした口調で告げた。
「だって、さっきいじめで転校したって……」
「僕、加害者側だから」
世界から音が消えた。透にぃは静寂の中、東京で何があったかを語り出した。