夜になり、歩き疲れて河原に腰かける。周りには誰もいない。買い込んだ食料を二人で食べる。大丈夫、透にぃと一緒ならちゃんと味がする。俺はちゃんと生きている。
「透にぃがいないと生きていけないや」
 そう呟いて気づく。透にぃはいつか俺から離れていく。
「行かないでよ、大阪行かないで」
 もしネバーランドにたどりつく前に大人に見つかって連れ戻されてしまえば、俺たちは離れ離れになってしまう。
 涙がこぼれる。やっぱり、夜になると弱気になってしまう。透にぃが隣にいるのに。

「潤くん、上見てよ」
 そう言って、透にぃは仰向けに寝転んだ。俺も透にぃと同じようにして寝転ぶ。涙でぼやけていた視界が少しずつクリアになっていく。
 満天の星空が広がっている。透にぃのおかげでやっと前を向けるようになったと思ったら、また下を向いていた。星空なんて何年ぶりに見るだろう。
「透にぃは大人だよなあ。世界は広いんだって教えてくれたもん」
 気づけば呟いていた。天の川があまりにも遠くまで広がっている。無限ってこういうことをいうのかなとぼんやり思った。
 思えば、なんてちっぽけな世界で怯えていたのだろう。
「先生とか親より、よっぽど透にぃの方が大人じゃん。逃げるなじゃなくて、逃げてもいいんだよって言ってくれたの透にぃだけだ。透にぃの方が正しいじゃんね」
「買いかぶりすぎだよ」
 透にぃの声は心なしか震えていた。少し手を伸ばせば、透にぃの手に触れる。心臓がうるさいくらいに鳴って、俺は透にぃのことが好きなのだと気づく。
「俺さ、来世は女の子に生まれ変わって透にぃと恋人になりたい。そしたら、ずっと一緒にいられるじゃん」
 告白する勇気はなくて、それだけ言った。透にぃはかっこいいから、きっといつかどこかでアニメのヒロインみたいに可愛い彼女ができて結婚して、俺から離れていく。女の子に生まれたかった。そしたら、もしかして。
「来世なんて言わないで。生まれ変わらなくても、ずっと一緒にいるから」
 手を強く握り締められた。透にぃが泣きそうな顔で俺を見ている。
 つい、期待してしまう。言っても、許されるんじゃないだろうか。俺は起き上って正座して、透にぃに向き直って深呼吸する。透にぃも起き上がって、俺の顔を見ている。
「俺は、透にぃのことが好きです。透にぃはいつも俺のこと守ってくれて、すごくかっこよくて、気づいたら一緒にいるとドキドキしてました。ずっと死にたいって思ってたけど、透にぃと一緒にいる時は生きたいって思えました。透にぃは俺のなりたい男の人像そのものって感じで、憧れです」
 心臓が口から飛び出しそうになるのをこらえながら告白する。あの日、名前で呼んでほしいと言った時の百倍心臓がバクバク言っている。我ながら言っていることがめちゃくちゃだ。でも、最後にこれだけは伝えよう。
「俺の、彼氏になってください!」
 透にぃに傷だらけの手首を撫でられる。震える声で、透にぃが言った。
「恋人になったら、死なないでくれる?」
「うんっ! 絶対に死なない!」
 俺は即答した。透にぃがいれば、何も怖くない。
「じゃあ、恋人になろっか」
 夢ならば、永遠に醒めないでほしい。こんな綺麗な星空の下、好きな人と結ばれた。 俺は透にぃに抱き着いた。生まれて初めての恋人同士のハグ。
「やっぱり、透にぃは俺の王子様だ」