今まで何度も差し伸べてくれた手。もう俺の答えは決まっている。透にぃの手を取った。昼休み終了まであと五分。透にぃは俺の手を引いて走り出す。涙で前なんてロクに見えないけど、先が見えなくても怖くなかった。
繋いだ手の温もりだけを信じて、ただ走り続けた。ギイーッっという音がして、地面の感触が変わる。顔を上げると、透にぃが開けた裏門を閉め直しているところだった。今立っているのは学校の敷地外だった。
チャイムの音がした。授業中に、学校の外にいる。脱獄不能の牢獄だと思っていた教室は、こんなに簡単に抜け出すことができるものだった。
「さて、いこっか」
「どこに?」
本当は透にぃと一緒ならどこでもよかった。でも、ちょっとだけ聞いてみたくなった。だって透にぃはいつだって俺が一番望む言葉をくれるから。
「ネバーランド」
子供の頃、母に毎晩読んでもらった『ピーターパン』の絵本。
現実は甘くないから子供だけの世界になんていられない。一足先に悪い大人になったクラスメイトは俺を傷つける。大人になれば、透にぃと離れ離れになってしまう。
でも、俺のピーターパンは目の前にいた。透にぃこそがピーターパンだったんだ。
逃避行にあたって、制服では目立つのであの日透にぃがリストバンドを買ってくれた服屋に入る。透にぃが買ってくれたリストバンド以外はつけたくなくて、長袖の服を物色していた。
「僕たち二人しかいないんだから、半袖でいいじゃん。また倒れちゃうよ」
透にぃは俺のグロテスクな手首を見ても引くどころか、撫でてくれる。この旅に俺を傷つける人はいない。
「このTシャツ、潤くんに似合うと思う」
あの日、俺が透にぃに服を選んでもらいたいと思っていたのもお見通しだったのだろうか。だとしたら、今俺が透にぃにドキドキしていることもお見通しなのだろうか。
皮肉なことに俺の財布には二万円入っている。二人分の服を買って、店を出た。その後、ホームセンターで必要なものを買って、あの日二人で歩いた河原に出る。
「どっちに行くの?」
「海の方向」
透にぃが指さす。歩き続けて海までたどりつけば、空を飛んで海を越えてネバーランドまで行けるのだろうか。
ずっと手を繋いだまま歩き続けた。男同士で手を繋いでいると、すれ違った人に変な目で見られることもあって、少しだけ傷ついた。
「大丈夫だよ、僕が守ってあげるからね」
透にぃのその言葉を無条件に信じられた。俺のピーターパンは悪いやつになんて負けない。俺をネバーランドに連れて行ってくれるんだ。
繋いだ手の温もりだけを信じて、ただ走り続けた。ギイーッっという音がして、地面の感触が変わる。顔を上げると、透にぃが開けた裏門を閉め直しているところだった。今立っているのは学校の敷地外だった。
チャイムの音がした。授業中に、学校の外にいる。脱獄不能の牢獄だと思っていた教室は、こんなに簡単に抜け出すことができるものだった。
「さて、いこっか」
「どこに?」
本当は透にぃと一緒ならどこでもよかった。でも、ちょっとだけ聞いてみたくなった。だって透にぃはいつだって俺が一番望む言葉をくれるから。
「ネバーランド」
子供の頃、母に毎晩読んでもらった『ピーターパン』の絵本。
現実は甘くないから子供だけの世界になんていられない。一足先に悪い大人になったクラスメイトは俺を傷つける。大人になれば、透にぃと離れ離れになってしまう。
でも、俺のピーターパンは目の前にいた。透にぃこそがピーターパンだったんだ。
逃避行にあたって、制服では目立つのであの日透にぃがリストバンドを買ってくれた服屋に入る。透にぃが買ってくれたリストバンド以外はつけたくなくて、長袖の服を物色していた。
「僕たち二人しかいないんだから、半袖でいいじゃん。また倒れちゃうよ」
透にぃは俺のグロテスクな手首を見ても引くどころか、撫でてくれる。この旅に俺を傷つける人はいない。
「このTシャツ、潤くんに似合うと思う」
あの日、俺が透にぃに服を選んでもらいたいと思っていたのもお見通しだったのだろうか。だとしたら、今俺が透にぃにドキドキしていることもお見通しなのだろうか。
皮肉なことに俺の財布には二万円入っている。二人分の服を買って、店を出た。その後、ホームセンターで必要なものを買って、あの日二人で歩いた河原に出る。
「どっちに行くの?」
「海の方向」
透にぃが指さす。歩き続けて海までたどりつけば、空を飛んで海を越えてネバーランドまで行けるのだろうか。
ずっと手を繋いだまま歩き続けた。男同士で手を繋いでいると、すれ違った人に変な目で見られることもあって、少しだけ傷ついた。
「大丈夫だよ、僕が守ってあげるからね」
透にぃのその言葉を無条件に信じられた。俺のピーターパンは悪いやつになんて負けない。俺をネバーランドに連れて行ってくれるんだ。