1年後。卒業式が終わり、俺は1人3年1組の教室に佇んでいた。そこに1年生の牧本が駆け込んでくる。
「めっちゃ探したんですけど!潤先輩2組なのになんで1組で黄昏てるんですか!」
牧本は息を切らせている。
「ああ、ごめん。俺にとっては、ここが居場所だったから」
ここで透にぃに会うために学校に通っていた。あの日々が今も俺を支えている。
「ごめん、俺に用事あった?」
牧本とは二学期に出会った。牧本がいじめられているところに出くわしたので助けた。牧本が昔の俺と同じように今にも死にそうな顔をしていたから、別室登校システムやこの学校の中で信頼出来る先生に繋げてやったり、相談に乗ったりしているうちに親しくなった。
そうこうしているうちに、牧本が"いじめで裁判を起こし加害者を全員退学に追い込んだ先輩"に入れ知恵されていると勝手にいじめっ子たちが勘違いしてビビり、牧本へのいじめはなくなったらしい。透にぃと俺の駆け落ちから1年も経てば噂に尾鰭がついたのだろう。
「用事ってほどではないけど最後に会いたかっただけですよ。神原高校合格おめでとうございます。先輩が大阪行っちゃうのは寂しいけど」
そう言う経緯もあり、牧本はやたらと俺を慕っている。
「最後だから言うんですけど、潤先輩のこと好きでした」
「えっ……ごめん」
牧本の気持ちには応えられない。傷つけてしまっただろうか。
「いや、振られるの分かってるんで別にいいですよ。第二ボタン最初からない状態で過ごしてる人相手に望みがあるなんて思いませんもん。謝んないでくださいよ。最後に謝らせてバイバイなんて先輩不孝したくないんで」
「そっか、ありがとう。気持ちは嬉しかったよ」
昔の俺はいつも下を向いていて、誰かに好かれるような人間じゃなかった。少しは近づけたのだろうか。かっこいい男に。優しい大人に。なりたい自分に。
「さっき見かけたんですけど、校門のところに神原の制服来た人いましたよ」
「えっ! 本当に?」
慌ててLINEを確認する。式典でサイレントマナーモードにしたままになっていて気づかなかったけれど、「来ちゃった」という連絡が5分前に来ていた。
「早く行った方がいいんじゃないですか?」
「うん。教えてくれてありがとう」
俺は大急ぎで荷物を担ぎ直す。
「先輩」
牧本が笑った。
「お幸せに」
「牧本もな!」
俺は教室を飛び出して、ダッシュで校門に向かう。
「透にぃ!」
校舎を出て、大きく手を振る。リストバンドの下には今も傷痕が残っているけれど、もう痛くない。
あの頃、一生抜け出せないと思っていた小さな世界を今日俺は飛び立つ。そのための翼をくれた俺のピーターパンと、手を繋いでどこまでも飛んで行けるから。
「めっちゃ探したんですけど!潤先輩2組なのになんで1組で黄昏てるんですか!」
牧本は息を切らせている。
「ああ、ごめん。俺にとっては、ここが居場所だったから」
ここで透にぃに会うために学校に通っていた。あの日々が今も俺を支えている。
「ごめん、俺に用事あった?」
牧本とは二学期に出会った。牧本がいじめられているところに出くわしたので助けた。牧本が昔の俺と同じように今にも死にそうな顔をしていたから、別室登校システムやこの学校の中で信頼出来る先生に繋げてやったり、相談に乗ったりしているうちに親しくなった。
そうこうしているうちに、牧本が"いじめで裁判を起こし加害者を全員退学に追い込んだ先輩"に入れ知恵されていると勝手にいじめっ子たちが勘違いしてビビり、牧本へのいじめはなくなったらしい。透にぃと俺の駆け落ちから1年も経てば噂に尾鰭がついたのだろう。
「用事ってほどではないけど最後に会いたかっただけですよ。神原高校合格おめでとうございます。先輩が大阪行っちゃうのは寂しいけど」
そう言う経緯もあり、牧本はやたらと俺を慕っている。
「最後だから言うんですけど、潤先輩のこと好きでした」
「えっ……ごめん」
牧本の気持ちには応えられない。傷つけてしまっただろうか。
「いや、振られるの分かってるんで別にいいですよ。第二ボタン最初からない状態で過ごしてる人相手に望みがあるなんて思いませんもん。謝んないでくださいよ。最後に謝らせてバイバイなんて先輩不孝したくないんで」
「そっか、ありがとう。気持ちは嬉しかったよ」
昔の俺はいつも下を向いていて、誰かに好かれるような人間じゃなかった。少しは近づけたのだろうか。かっこいい男に。優しい大人に。なりたい自分に。
「さっき見かけたんですけど、校門のところに神原の制服来た人いましたよ」
「えっ! 本当に?」
慌ててLINEを確認する。式典でサイレントマナーモードにしたままになっていて気づかなかったけれど、「来ちゃった」という連絡が5分前に来ていた。
「早く行った方がいいんじゃないですか?」
「うん。教えてくれてありがとう」
俺は大急ぎで荷物を担ぎ直す。
「先輩」
牧本が笑った。
「お幸せに」
「牧本もな!」
俺は教室を飛び出して、ダッシュで校門に向かう。
「透にぃ!」
校舎を出て、大きく手を振る。リストバンドの下には今も傷痕が残っているけれど、もう痛くない。
あの頃、一生抜け出せないと思っていた小さな世界を今日俺は飛び立つ。そのための翼をくれた俺のピーターパンと、手を繋いでどこまでも飛んで行けるから。