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一年後・夏。

俺は全国大学野球公式戦の決勝マウンドに立っていた。

一点リードで迎えた九回ウラ、ツーアウト、ランナー二塁三塁、カウントはスリーボール、ツーストライク。

俺は額の汗を腕で拭うと、ロージンバッグを握って地面に落とした。

(……あとひとつ)

相手打者は今季打率四割の四番バッターだ。

俺はキャッチャーのサインに目を凝らす。大学で知り合い、バッテリーを組んだばかりの相棒からはスライダーの要求だ。俺は小さく首を振る。

(こういう時……拓海なら……)

俺は大きく深呼吸する。

──『信じてる』

俺は再度、提案されたサインに唇を持ち上げると、同じくニヤッと笑ったキャッチャーに頷き返し大きく振りかぶった。指先まで力を込め、最高スピードギリギリで指からボールを離す。

(いけっ!!)

──刹那、グラウンドが静寂になる。

「ストライク! バッターアウト!」

審判の声にグラウンドから轟くような大歓声が上がった。

俺はグラウンドからの声援に頭を下げると、そのままバックネットに向かって駆け出した。

最前列で俺の『特別』がこれでもかと大きく手を振っている。大学の講義の合間に急いで駆けつけてくれたのだろう。メガホンを片手にこちらに向かって満面の笑みを浮かべている。

俺は拓海の未来の延長線上ですぐ隣を歩く自分を思い描きながら、夏空に向かって思い切りグローブを放り投げた。



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