家に帰って自分の部屋に入ると、私はくずおれるようにベッドに倒れ込んだ。
 もう会えない。違う、もう会わない。今度こそ、本当に終わり。

 ──もう二度と、大輔と関わらないで。

 一番言われたくなかった台詞を、一番言われたくなかった人に突きつけられた。こんな終わり方だなんて思っていなかった。こんなに突然、こんな形で終わりが訪れるなんて、思っていなかった。
 わかっていた。この二年間の結末がどうなるかなんて、痛いほどよくわかっていた。だけど、もう終わりにしようって、ふたりで決めたかった。ちゃんと覚悟ができる瞬間まで待ってほしかった。

 だけど、私は本当に自分で終わらせることができたのだろうか。
 いつだって私は、もう少しだけ、もう少しだけって、そればかり考えていたのに。
 大ちゃんを失うことが、なによりも怖かったのに。

 体中の水分がなくなってしまうんじゃないかと思うくらい、泣いた。
 なのに、泣いても泣いても、どれだけ泣いても、涙が枯れることはなかった。
 それはまるで、大ちゃんへの想いのようだった。

 どんなに溢れても、これ以上はないと何度思っても、決して尽きることはない。二年間育ち続けた大ちゃんへの想いは、とても抑えることなんてできないものだった。とても簡単に止められるものじゃなかった。
 私は知らなかった。〝愛してる〟って綺麗なことだと思っていたのに、こんなにも苦しいなんて。

 いったいどうしたら、とめどなく溢れてくる涙も想いも止まってくれるのだろう。
 これからは自分で止めなければいけないのに、方法がわからない。
 止めてくれる人は、もういないのに。頭を撫でてくれる人も、泣き虫って言いながら笑ってくれる人も、冷たい手で拭ってくれる人も、もういないのに。

 ラベンダー畑に連れていってくれるんじゃなかったの?
 私がいなくなるなんて考えられないんじゃなかったの?
 私が必要だって言ってくれたじゃん。
 世界で一番愛してるって、言ってくれたじゃん。

 忘れられない。忘れたくない。
 どうして。どうして。どうして。

 いい加減ちゃんとしなきゃいけない。わかっているのに、私は大ちゃんの連絡先を消すことさえできなかった。机の引き出しの三段目を空にすることは、もっとできそうになかった。

 どれだけ泣いていただろう。
 メッセージの受信音が部屋に響いた。
 涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、床に放ってあったスマホを手に取った。

「大ちゃん……」

 画面には間違いなくその名前が表示されていた。
 本当に大ちゃんだろうか。だって今は真理恵さんと一緒のはずだ。
 大ちゃんからメッセージが来たのに、すぐに開けなかった。ちっとも嬉しくなんてなかった。怖くて仕方がなかった。
 なんて書かれているんだろう。読みたい。読みたくない。こんな矛盾を、今まで何度感じてきただろう。

 ごくりと喉を鳴らして、恐る恐るスマホに手を伸ばした。
 大ちゃんからのメッセージは──本当にこれが最後になる。
 流れ続けている涙を手の甲でぐしゃぐしゃと拭いて、大きく深呼吸をする。
 けれど、そんなことをしても無意味だとすぐにわかった。
 メッセージを読んだ私は、今まで以上に泣くことになるのだから。