めちゃくちゃなことを言っているのはわかっていた。真理恵さんは一切悪くないことも、私に責める権利なんて微塵もないことも、こんなのただの逆ギレでしかないことも、頭ではちゃんとわかっていた。

 だけど、止まらなかった。
 この人さえいなければ。それしか考えられなかった。
 こんな時でさえ、大ちゃんがいるだけで感情をコントロールできなくなる。

 どうしてだめなの?
 どうして叶わないの?

 ただ好きだった。一緒にいたかった。そばにいたかった。
 隣で笑ってくれるなら、それだけで満たされた。
 大ちゃんがいてくれるなら、他になにもいらなかった。
 最低だと言われても、どんなことをしてでも、私を見てほしかった。
 ただ、それだけだったのに。

 この恋は叶わない。この先には終わりしかない。大ちゃんは私を選んでくれない。
 そんなこと痛いくらいにわかっていた。
 だけど、どうしても、覚悟なんかできなかった。そんなのできるわけがなかった。

 もう強がることさえできなかった。
 大ちゃんを失いたくない。願いはずっと、それだけ。

 ふたりは私を見たままなにも言わない。私は俯いて涙を隠した。

「菜摘……ごめん。俺やっぱ馬鹿だ。ごめんね……」

 声にならなくて、必死に首を横に振る。
 謝らなければいけないのは私だ。
 大ちゃんも苦しんでいることに気付いていたのに、自分の気持ちに囚われてしがみついていた私が悪い。

「呼び出したりしてごめんね。菜摘ちゃんだけ責めるのは間違ってた」

 涙が止まらない。泣きたくなんかないのに。

「許すから」

 お願い。その先を言わないで。
 殴られたっていい。許してほしいなんて思ってない。最低だって、おかしいって、どんな言葉も受け入れるから。
 だから──なによりも恐れていた台詞を、言わないで。

「もう二度と、大輔と関わらないで」