そのメッセージが届いたのは、海へ行った日から二週間後の早朝だった。
 大ちゃん、という名前を見て、弾かれたように上半身を起こした。

 この二週間、大ちゃんとは一度も会っていない。連絡すら取っていない。そうでなくともこんな時間に連絡が来るなんて珍しい。もう会えないかもしれないと思っていた私は素直に嬉しかった。
 けれど内容を見た瞬間、愕然とすることになる。

【大輔の彼女です】

 血の気が引くというのは、まさにこのことだと思った。
 大ちゃんの、彼女。
 鼓動が猛スピードで速まっていく。
 一度目を逸らして、呼吸を整えられないまま再び画面を見た。

【急なんだけど、今日会えないかな? あたしの車で迎えに行くわ。なんでかはわかるよね? あたし全部知ってるから】

 なにが起こっているんだろう。
 まだ覚醒しきれていない頭ではすぐに状況を把握できず、スマホを持ったまましばし呆然とする。もっとも、覚醒している頭でも理解できた自信はない。
 やがて事の重大さを理解した時、鼓動がさらに速まり、背中に嫌な汗が伝った。

 彼女に、ばれた。
 なんで。どうして。

 ──あたし全部知ってるから。

 全部ってどこまでだろう。本当に全部だろうか。
 大ちゃんが彼女と別れる前にも会っていたし、私たちがしていたことは完全に彼女に対する裏切り行為だ。前にばれた時──中三の冬とは状況が違いすぎる。本当にすべて知っているのなら、逃げるわけにはいかない。
 深呼吸を繰り返して、無理やり気を落ち着かせて返信する。

【わかりました。夜でいいですか?】
【夜は大輔が仕事だから無理。四時にゲーセン来て】

 彼女は私のことを知っているのだろうか。そもそも、どうしてばれたんだろう。
 ──ていうか、大ちゃんの彼女って?
 今さら重要なことに気付いた私は、変わるわけのない名前を凝視した。

 何度確認しても、間違いなく大ちゃんからだ。つまり大ちゃんのスマホから送っているということで、それはつまり、おそらく大ちゃんが近くにいるということで──ていうか、大輔の彼女と名乗るということは。
 彼女とよりを戻した、ということで。

「……は?」

 ちょっと、待って。なに、それ。
 放心していると、立て続けにメッセージが届いた。

【逃げないでね。うちら婚約してるし子供もいるんだわ。ただの浮気じゃ済まされないから】

 ……は? 婚約? 子供?
 なにそれ。嘘でしょ? ちょっともう、本当に、わけがわからない。
 そんなの聞いていない。結婚するってこと? 別れたいけど別れられないってこういうことだったの? だけど子供がいて婚約しているのに、喧嘩したくらいで別れたりするだろうか。それとも、別れたこと自体が嘘だった?

 でも、大ちゃんがそんな嘘をつくとは思えない。でも、もうわからない。だって、現に今、こうして大ちゃんのスマホで大ちゃんの彼女からメッセージが来ている。
 これは夢なんじゃないかと無意味でしかない現実逃避をしてみても間違いなく現実で、目に映っている文章は何度見ても変わらなかった。

【わかりました】

 私たちはもうすぐ終わると、思っていた。
 だけど、さすがにこんなのひどすぎる。
 私の語彙力では、この感情を言葉にすることはとてもできそうになかった。