砂浜に車を止めると、大ちゃんは大きく伸びをした。
七月なのに車が一台もない。
それだけで、世界中にふたりしかいなくなったような錯覚に陥る。
「菜摘は? いつから俺のこと好きだったの?」
「初めて会った時だよ。ひと目惚れしたの」
「え、そうなの?」
信じられないとでも言いたそうに目を丸くして自分の顔を指さした。
うん、と頷くと、今度はなにやら不思議そうな顔をした。
まさかこの人、自分の顔面偏差値を知らないのだろうか?
「そ、そっか。え、顔以外は?」
「優しいのに優しくないとことか、嘘つけないくせに嘘つきなとことか」
「おまえたまにわけわかんないこと言うよな。難しくてわかんねえよ」
「全部好きだってことだよ」
「適当に言ってんだろ。俺すげえ真面目に答えたのに」
「適当じゃないよ」
大ちゃんの好きなところを挙げたらきりがない。たくさんありすぎる。それなら全部とまとめるしかないのだ。
唯一、嫌なところは……なにかあった時、なにも言ってくれないところだろうか。
「そっか。ありがと」
例えば、『雪が解けたらなにになる?』と訊かれたら、大ちゃんは『水』でも『春』でもなく『泥』と答えるような、とても寂しい人で。
そういうところが、なによりも大好きだった。
「私ね、たぶん一生好きだよ。大ちゃんのこと」
永遠なんて存在するのかわからない。不明瞭で、不確かで、ひどく曖昧なものだ。
それでも、大ちゃんへの想いは永遠だと、心から思えてしまう。他の人を好きになるなんて、大ちゃんへの想いが消えるなんて、そんなの想像できない。
「どうしたらいい?」
右手が塞がる。夏なのに、やっぱり大ちゃんの手は冷たい。だけど温まる。
魔法の手だなんて可愛いことは言えないけれど、不思議だった。
「ずっと好きでいてよ」
笑っているのに、とても寂しい目をしていた。
すべてが不思議で、すべてに惹かれる。すごく、引き込まれる。
「うん。約束する」
綺麗だなあ、と思う。何度も、何度でも。
不器用で、弱くて、寂しくて、孤独なこの人を。
だけど、もうそんな目ばかりしないでほしい。
大ちゃんは知らないのだ。
ひとりぼっちなんかじゃないということを。
「約束ね」
大丈夫。寂しくなんかないよ。
いつまでも、いつまでも、私は大ちゃんを想っているから。
約束するから──。
私を、忘れないでね。
ずっと、ずっと。