「だって俺、家がまあまあ金持ちでラッキーとか思ったことないから。就活もしなくて済んだから楽っちゃ楽だったし、べつに嫌とか辛いとかもないけどさ。全部どうでもよかった。……でも、なんていうか、とにかく、あの時はたぶん嬉しかった」
「……うん」
「菜摘が高校受かったのも嬉しかったよ。落ちたらもう会えないかもって思ってたから。部活見に来てたのも、俺が話しかけるたびに嬉しそうに笑ってくれるのも、全部嬉しかった。……彼氏できたって知った時は、正直ちょっとショックだったかも」
鼻の奥がつんと痛んだ。
全部全部、大ちゃんには伝わっていないと思っていたのに。
今まで頑張ってきたことが、やっと報われた気がした。
「だから、たぶん……今考えてみれば、ずっと前から好きだったんだろうな」
でも、遅いよ。遅すぎるよ。
「だったら言ってくれればよかったじゃん。好きなら好きって、言ってくれなきゃわかんないよ」
「俺わかんなかったんだよ。好きとか嫌いとか。人を好きになったことも、興味持ったことすらなかったから」
大ちゃんが平然と言った言葉が、とても寂しかった。
わからないのは恋愛だけじゃないのだろう。大ちゃんはきっと、誰にでもある〝感情〟がよくわからないんだ。嬉しいとか、哀しいとか、楽しいとか、寂しいとか、そういうすべての感情に対して鈍感なんだ。
もしかすると、もともとそうだったわけじゃなく、いつの間にか感情を押し殺すようになって、それが癖になっていたのかもしれない。だから自分でもわからなくなってしまったのかもしれない。
なにも教えてくれなかったのは、はぐらかしていたわけじゃなかったんだ。深いところに触れようとすると壁を作ってしまうのは、わざとじゃなかったんだ。ただ、自分でもわからなかっただけなんだ。
わからないから、いつも笑っているのだと思った。
なんとなく感じていた大ちゃんの寂しさや孤独が、私の寂しさに誰よりも早く気付いてくれた理由が、初めてちゃんとわかった気がした。
「好きだったよ、ずっと。信じてくれる?」
私も同じだった。いや、私の親は社長でもなんでもないし全然違うのだけど、でも、同じだった。
私も人に本音を言うのがとても苦手だった。どうでもいいことはべらべら喋るのに、肝心なことほど口にできなかった。自分の中にあるものを言葉として表現することが、人に心を開くことや向き合うことが、極端に苦手だった。
だから、私の奥の方にあるものを見つけてくれる人を求めていたのかもしれない。
初めて大ちゃんと公園で話した日、寂しそう、と言ってくれたことにほっとした。きっと他の人に言われたら茶化してごまかしていたと思う。だけど、大ちゃんにはなぜか素直になれた。たぶん恋愛感情を抜きにしても、大ちゃんには最初から心を開いていた。
この人だって、思った。
「うん。信じる」
大ちゃんがくれる言葉なら、全部受け止める。
もう疑ったりはしない。たとえ嘘だとしても、全部信じる。
大ちゃんが本当だと言うのなら、たとえそれが嘘だとしても、私にとっては本当になるんだよ。