「駿からみんなで遊ぼうって言われた時も、ほんとは嬉しかったよ。もう会えないと思ってたし……菜摘だって俺に会いたくないだろうなって思ってたから」

 大ちゃんはずるい。とても気にしているような態度じゃなかったのに。
 ちゃんと言ってくれたらよかったのに。そしたらちゃんと否定したのに。
 勝手に自己完結して、それを今さら言うなんて、ずるい。
 会いたくないわけないじゃんって、私も会えて嬉しいんだよって、ずっと会いたかったんだよって、言わせてほしかった。

「で、そのあと……植木んちの近くでまた喧嘩した時、おまえ泣いてたじゃん」
「うん」
「なんていうか……綺麗だって、思ったんだ」

 そんなことを言われたのは初めてで、驚いて、体が小さく震えた。
 私もずっと思っていた。大ちゃんの寂しさを見るたびに、弱さに触れるたびに、綺麗だと思っていた。

「親が金持ちって話した時のこと覚えてる?」
「覚えてるよ」

 今日の大ちゃんはお喋りだ。ていうか、忘れっぽそうなのに意外とよく覚えてるんだな。
 私にとって大ちゃんと話したことは全部が特別で、たぶんどんなに小さなことでも覚えている。大ちゃんも覚えてくれていたことが嬉しかった。ほんの少しでも、私と過ごした日々を特別に感じてくれているのだろうか。

「あの時なんか変な顔して黙ってたよな。なんで?」
「あんまり訊かれたくなさそうっていうか、話したくなさそうっていうか……とにかく、全然嬉しそうに、自慢げに見えなかったから、かな」

 うまく言葉にできずもごもご言うと、大ちゃんは「けっこう鋭いな」と笑った。

「俺ひとりっ子だから、親父の会社継ぐのなんて、たぶん生まれた時から決まってたんだよ」

 生まれた時から将来を約束されている、と言えば聞こえはいいけれど、私にはまるで違う意味に聞こえた。
 逆を言えば、自分の意志に反して全部決められてしまうわけで。

「興味ある仕事とかなかったの?」
「子供の頃はあったよ。それなりに」
「親に言わなかったの?」

 いつもなら訊けないのに、するすると言葉が出てくる。今日の大ちゃんは話してくれると思ったからなのか、今訊いておかなければと思ったのか。

「言ったよ。けど、すげえ複雑そうな顔されたような気がする」
「……そうなんだ」
「だから、あー俺は親に敷かれたレールの上を歩いていくんだろうなって、たぶん子供ながらに漠然と思ったんだよな」

 もしかしたら、他にも我慢を強いられることがたくさんたくさんあったのかもしれない。
 だから──感情を表に出すことを諦めてしまったのだろうか。
 大切なことを人に言えなくなってしまったのだろうか。

「俺、たぶん嬉しかったんだよ。羨ましいとか、菜摘がそういうのひと言も言わなかったのが」
「え? なんで?」