一週間後の土曜日、二十時。待ち合わせは、私たちが再会したコンビニ。
目いっぱいお洒落をした。大ちゃんが好きなカジュアルな服を着て、メイクもいつも以上に丁寧にして、髪もアイロンでしっかりとストレートにした。
待ち合わせの時間の少し前、見慣れた車が私の前に止まった。
「菜摘」
呼ばなくたってわかるのに、いつも大ちゃんはわざわざ窓から顔を覗かせる。
この瞬間がたまらなく好きだった。大ちゃんに会った時、高鳴る鼓動が心地よかった。
「久しぶり」
「うん。久しぶり」
助手席に座ってシートベルトをすると、車が発進した。行き先は決まっているから相談会はない。いつものようにたわいもない話をしながら車を走らせる。
大ちゃんの横顔が好き。やや垂れている大きな目も、高い鼻も、しゅっとした顎も、しっかりと筋肉がついた腕も、私を簡単に包み込んでしまう大きな手も、全部が好き。運転している時の男の人って、どうしてこんなにかっこいいんだろう。
ばれないように、大ちゃんの横顔を見つめていた。
大ちゃんの姿を、目に焼きつけていた。
走り始めてから一時間。なにもない田舎道。車もなければ人もいない。たまに見かけるお店もみんな閉まっていた。
開けている窓から、潮の香りが漂う。あと少しで、目的地の海に着く。
「大ちゃんって、いつから私のこと好きだったの?」
「はっ?」
こっちを向いて、目をまんまるに見開いた。
ここまで驚かれるとは思わなかった。
「危ないな。前向いてよ」
「あ、ああ、うん」
んー、んー、と唸ってから、大ちゃんが口を開いた。
「カラオケで会った時さ、嬉しかったんだよね」
出会った頃のことだろうか。初めてたくさん話をした、あの日。
まさかそこまで遡ると思っていなかった私は驚いてしまった。
「ゲーセンで会ったじゃん。その時からちょっと気になってたっぽい」
ぽいって、そんな曖昧な。
でも、そんなに前から気にしてくれていたんだ。
だから私のことはすぐに覚えてくれたのだろうか。
私の自惚れじゃなかったのだろうか。
「それで?」
「急かすなよ」と笑って続ける。「喧嘩した日さ、嫌われたと思った。巻き込んじゃったし」
「嫌いになんかなってないって言ったじゃん」
「いや、そうだけどさ。嫌われたと思ったんだよ。で、あいつに告られて付き合ったらおまえ告ってきたじゃん。もうだめだと思ったのに」
大ちゃんの話を聞きながら掘り起こしていた記憶が、告白した日にたどり着いた。
そうだ。あの時大ちゃんは『なんで』と言った。たしか『複雑な関係』とも言っていた。
──真理恵に告られた時、一回断ってるよ。気になる子がいる、って。
こういう意味だったのだろうか。あの時はわからなかった、すぐに忘れてしまった『なんで』と『複雑な関係』の意味が、まさかここで繋がるとは思わなかった。