ベッドに横たわったままうとうとしていた私を、大ちゃんはお風呂場に強制連行した。お湯を溜めて泡風呂にした。エアコンで冷えていた体がじんわりと温まっていく。
大ちゃんが後ろから私の体を包んだ。
これから話すことはなんとなくわかっていた。
それでも、私のすべてが大ちゃんの手に反応する。
「俺らってどういう関係なんだろうな」
「そんなの……セフレ、でしょ」
声が浴室に反響する。
こんな台詞、私に言わせないでほしい。
「……俺、セフレとかそういうの嫌なんだよ。体だけみたいな」
なに勝手なこと言ってるんだろう。こうなってるのは誰のせいだと思ってるんだろう。私にどうしろって言うんだろう。この状況が嫌だと言うなら、選択肢はひとつしかないじゃない。
私と付き合う気なんて、もうないくせに。
彼女と別れたのに私が願っている言葉をくれない。それが答えだ。
「大ちゃんはどうしたいの? 今さらただの友達になんかなれないよ。そんなことわかってるでしょ?」
私は自分でも不思議なくらい落ち着いていた。
泡を手ですくう。強く吹くと、泡が大雑把に飛んだ。そして、儚く散っていく。
漫画みたいに、綺麗なシャボン玉になったらいいのに。
「……俺、自分勝手なのはわかってるけど」
「うん」
「菜摘とは離れたくない。俺……中途半端なことばっかりして、こんなこと言える立場じゃないけど。菜摘がいなくなるなんて考えられないんだよ……。できるなら菜摘と一緒にいたいけど、今は……できない」
「……うん。そっか」
「けど、どうしても……俺には菜摘が必要なんだよ」
私だって大ちゃんと離れたくない。大ちゃんがいなくなるなんて考えられない。大ちゃんを好きな気持ちは計り知れない。底を突くことがない。どんどん好きになる。
だけど、きっと、私たちは──。
「私にだって、大ちゃんが必要なんだよ」
後ろを向くと、大ちゃんはほっとしたように微笑んだ。
ずるいなあ、と思う。たったこれだけで、全部許せてしまうのだから。
大ちゃんにはけっこう振り回されてきたと思う。
だけど同じくらい、幸せな夢を見せてくれた。
大ちゃんとなら、私は何度だって夢を見られた。
「ありがとう、大ちゃん」
私はきっと、もう大丈夫だ。
夢から覚めても、もう大ちゃんを責めたりはしない。
少しのぼせてしまった私は、お風呂から出てバスローブを着た。ソファーに座っていちご味の飴を頬ばる。しばらくして出てきた大ちゃんも、バスローブを着て私の隣に座った。
大ちゃんの腕に手を絡めて、肩に頭を預けた。
大ちゃんは、いつかみたいに私の頭にこつんと頭を重ねた。
「あのさ」
「ん?」
「お願いがあるんだけど」
「うん。なに?」
どうしたんだろう。大ちゃんにそんなことを言われたのは初めてだ。
大ちゃんが私に聞いてほしいと言うなら、絶対に聞いてあげたい。
どんなお願いだって、私が必ず叶えてあげたい。
唇から伝わる大ちゃんの体温を感じながら、そう思った。