大ちゃんからの連絡がないまま、私から連絡することもできないまま二週間が過ぎた。往生際の悪い私は毎日スマホが鳴るたびに期待して、表示されない名前に落胆していた。
やっと大ちゃんからメッセージが届いたのは、理緒の家に四人で集まっていた時だった。
「菜摘、どうしたの? スマホ鳴ってるよ?」
麻衣子が私の顔を覗き込む。
「うん……」
大ちゃんの名前が、スマホの画面に表示されている。
この二週間ずっと待ち続けていた大ちゃんからのメッセージなのに、私はすぐに開くことができなかった。
なんだろう。なんて書いてあるんだろう。
ドクンドクンと激しく鳴る胸に手を当てながら、恐る恐るメッセージを開いた。
【彼女と別れた】
え、と、声が漏れた。
なに、これ。
彼女と別れた。大ちゃんが、彼女と別れた。
なによりも願っていたはずなのに、たったひと言なのに、すぐに理解できなかった。
画面を見つめながら徐々に整理できてきた時、私は頭に浮かんだ言葉を迷わず文字に起こして送った。
【今から会える?】
ほとんど衝動だった。〝会いたい〟という、抑えきれない衝動。
ここでメッセージを無視できたら、もう遅いだとかせめて突き放す台詞を返せたら、少しはかっこいい女になれるのかもしれない。だけど私はできなかった。
どれだけ振り回されても、私は結局大ちゃんが好きで、大ちゃんに会いたいという欲求に負ける。大ちゃんと出会ってから、私は感情のコントロールができたことなんて一度もなかった。かっこ悪くて、情けなくて、汚くて、嘘つきだった。
私のことが好きじゃないならはっきり言ってほしい、そしたら今度こそ幻滅して、いい加減諦めがつくかもしれない、なんて大嘘だったのだ。
──彼女とは別れるから。
──待っててくれる?
──菜摘が好きだよ。
どれかひとつでも、もう一度言ってくれることを、願っていた。
【迎えにいく】
スマホだけを持って、理緒たちに断り家を出た。
近くのコンビニで迎えを待つ。
大ちゃんはすぐに来た。
「菜摘」
いつものように名前を呼ぶ声に、心臓が落ち着いていくのがわかった。助手席に座ると、久しぶりの甘い香りに胸が高鳴るのを感じた。
どれだけ複雑な心境でも、私は結局、大ちゃんと会えたことが嬉しかった。
「……久しぶりだね」
できるだけ平静を装う。
最後に会ってからまだ一か月も経っていないのに、懐かしささえ感じた。大ちゃんに会えない日々は、もう会えないんじゃないかと思いながら過ごす毎日は、一分一秒が信じられないほど長い。
今まで何度、こんな思いをしてきただろう。
「うん、久しぶり。元気してた?」
元気じゃないよ。苦しくて、寂しかった。会いたくてたまらなかった。
「元気だよ。今日はどこ行くの?」
私に会いたいと、少しでも思ってくれた?
私のことを、少しでも考えてくれた?
「俺あそこ行きたい。夜景スポット」
私も行きたかったから、行き先はすぐに決まった。
コンビニで飲み物を買ってから向かった。
本音なんて、ひとつも言えないまま。