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 大ちゃんが彼女と別れることのないまま、中途半端な関係は続いていた。

【次いつ会える? 話したいことがあるんだけど】

 そうメッセージを送ったのは、由貴からある話を聞いたからだ。植木くんや駿くんや、高校時代の友達数人で開催されたミニ同窓会に、大ちゃんの彼女も来ていたらしかった。

 大ちゃんとのことを、私はみんなに話していない。話せなかった。いくら大ちゃんが好きだと言ってくれても、現状はただの浮気相手でしかないのだ。だから由貴はただ植木くんから聞いたことをそのまま私に単なる世間話として言っただけ。私はおそらく歪な笑顔を張りつけながら『そうなんだ』としか返せなかった。

 別れるつもりなら、友達と集まる場にわざわざ連れていったりしないだろう。
 待ってて、って言ったくせに。だから私、待っていたのに。

【ごめん、まだわかんない。最近ちょっと仕事忙しくて】

 避けられていると直感するには充分すぎた。
 ──ただのチャラ男だったってこと?
 最悪なタイミングで、ずっと忘れていた伊織の声が鼓膜に響いた。

【彼女と別れないの?】

 初めての詮索をする。
 大ちゃんから彼女と別れたと言われるまで、自分からはなにも言わないつもりだった。なのに訊いてしまったのは、なんとなく答えがわかっているからかもしれない。

【ごめん。いろいろあってなかなか別れられないんだ】

 予想通りなのに、それでも私はショックを受けた。
 いろいろってなに? またなにも教えてくれないの?
 今度こそ近付けたと思ったのに、またそうやって突き放すの?
 そんなの今までと変わらない。

【ちゃんと会って話したい。時間作れない?】
【電話で話せない? たぶんもう会えないと思うから】

 なんで、と思わずひとりごちる。
 意味がわからない。急にそんなことを言われても納得できるわけがない。

【なんで会えないの?】
【ごめん。ほんと忙しいから、時間ないんだ】

 嘘つき。会えないのは忙しいからじゃないじゃん。どんなに忙しくても会いに来てくれたじゃん。
 痺れを切らして電話をかけても、大ちゃんは出てくれなかった。メッセージが来ることもなかった。スマホを置いて、ぼんやりとなにもないところを見つめた。涙は出なかった。

 ああ、そうか。
 大ちゃんは彼女と別れない。私の嫌な予感はよく当たるのだ。
 駿くんが言っていたことは、やっぱり単なる推測でしかなかったんだ。本当にずっと前から私のことを好きでいてくれたなら、とっくに彼女と別れていたはずだ。他に好きな子がいるのに、私の気持ちなんてだだ洩れだったはずなのに、別れない理由があるだろうか。
 どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。あまりにも、幸せに溺れすぎていた。

 好きだと言ってくれたのは噓だったのだろうか。彼女とあまり会えていないと言っていたし、まさかただの暇つぶしだったのだろうか。私はもう用無しなのだろうか。
 そんなこと、大ちゃんに対して思いたくないのに。

 もう、終わりなのかな。こんなので納得できるほど簡単な気持ちじゃないのに。
 どうせ終わるなら、ちゃんと会って話したい。私のことが好きじゃないなら、全部嘘だったなら、はっきりとそう言ってほしい。そしたら今度こそ幻滅して、いい加減諦めがつくかもしれないのに。
 いつだって、大ちゃんはずるい。