虚しい行為かもしれない。これは浮気でしかないのだから。
 わかっているのに、大ちゃんの冷たい手も、名前を呼ぶ優しい声も、切ない表情も、すべてが愛しくて、恋人になれたような錯覚を覚えた。大ちゃんの腕の中には幸せしかなかった。彼女への罪悪感や罪の意識なんて、これっぽっちもなかった。

 大ちゃんといるだけで心が満たされる。自然体でいられるような、完全体でいられるような、そんな感覚になる。私の居場所は大ちゃんの隣だと思える。
 これが罪だというのなら、たとえ天罰が下ったってかまわない。
 大ちゃんといられるなら、なんだって耐えられる。
 だから──離れたくない。離したくない。
 ずっとずっと、大ちゃんのそばにいたい。

 大ちゃんの腕に包まれながら、私は幸せの余韻に浸っていた。

「こないだ知ったんだけどね、私の誕生花ラベンダーなんだって」

 大ちゃんと話すのは、いつもこんななんでもない話ばかりだった。
 それでも大ちゃんは、ちゃんと答えてくれる。

「そうなの? じゃあ夏になったらラベンダー畑でも連れてってやるよ」
「ほんと?」
「ちょっと遠いけど大丈夫?」
「うん! 行きたい!」

 未来を示す言葉をくれたことが嬉しかった。

「いつ頃が一番綺麗なの?」
「たぶん七月の半ばくらい」

 一か月後、か。

「そっか。楽しみにしてるね」

 こんな小さな約束がどれだけ嬉しいか、大ちゃんはきっと知らない。
 その頃まで、一緒にいられる?
 その頃には、彼女になってる?
 この恋に未来があるって、信じてもいい?