ホテルに着いても無言のまま部屋に入った。
 前を歩いている大ちゃんは、一度だけ振り向いて私がついてきているか確認すると、ふたりがけのオレンジ色のソファーに腰かけた。私もどぎまぎしながら大ちゃんの隣に座る。

 沈黙に耐えられなかったのか、あるいは手持無沙汰になったのか、大ちゃんがテレビをつけた。
 すると、大画面に裸で絡み合う男女の姿が映った。

「──ちょ、やばい。これはだめだな」

 慌ててテレビを消した大ちゃんは、私以上にどぎまぎして顔を赤らめた。
 未だかつて見たことがないほど慌てふためく大ちゃんに、つい噴き出してしまう。可笑しくて、ちょっと可愛い。ベタな展開だなあ、なんて思った。

「大ちゃん、ここどこだかわかってる?」
「わかってるけど……うわーやべえ、緊張してきた」
「え、自分がこんなとこ誘ったんじゃん」
「そうだけど……おまえととか緊張すんだよ!」

 だから、誘ったのは大ちゃんじゃん。
 少し呆れつつ、緊張しているのが私だけじゃないことも、初めてどぎまぎする大ちゃんを見たことも、ちょっと嬉しかった。大ちゃんのどんな一面を見ても、それがどんなに小さなことでも、やっぱり好きだなあと思う。

「大ちゃん」
「はい」
「あのね、……大好き」

 語尾が震えた。
 きょとんとしている大ちゃんに、初めて私から抱きついた。この二年間で、初めて。
 私はいつも大ちゃんから来てくれるのを待っているだけだったのだと、今さら気付いた。

「俺も好きだよ」

 今度は私からキスをした。唇を離すと、大ちゃんは優しく微笑んで私の髪に触れた。
 頭を撫でられるのは好き。髪に触れられると、愛おしくてどうしようもなくなる。

「おいで」

 ソファーから立ち上がった大ちゃんは、私に左手を差し出した。右手を重ねて私も立ち上がり、ベッドに座った。
 静寂に包まれる。お互いをじっと見つめ合う。
 どう考えてもいい雰囲気なのに、大ちゃんは私の頬を軽くつねった。

「なんかおまえ相手だと雰囲気出ねえな」
「は?」

 緊張するって言ってたくせに。

「馬鹿」
「冗談だよ。……あのさ」

 大ちゃんが急に真剣な顔をしたから、いよいよかと思わず身構える。

「チューしていい?」

 なにを今さら。
 突っ込んだらまた雰囲気出ないだのと文句を言われそうだから、「うん」とだけ答えた。

「おまえ可愛いな。……エッチする?」
「もうちょっと……空気読んでくれないかな……」

 一向に事が運ばない。
 大ちゃんが何度も雰囲気をぶち壊してくれるおかげで、車内では破裂寸前だった私の心臓は通常運転に戻っていた。無駄に緊張しなくて済むのはありがたいけれど、さすがにこういう時くらいは多少緊張感がほしい。

「いちいち訊かないでよ馬鹿」
「いや、だってさ。……ほんとにいいの?」

 ためらうように、私の頬にそっと手を当てた。

「うん」

 大ちゃんが安堵したように微笑んだのを合図に、ゆっくりと目を閉じた。